3章 チコリータ、ゲットだぜ!

「ブイ……?」

イーブイは耳をピクピクさせると、次第に目を開けた。

「イーブイ、起きたみたいね」

イーブイは寝ているトゲピーを抱いているカスミを見上げて、まだ重たい瞼をパチパチさせた。ミズカがいない。

「ブイブ?」
「ミズカなら、チコリータを追いかけて言ったわよ。そのうちーー」

カスミが説明しようと言いかけた刹那ーー

「オニスズメ! この女に向かって、電光石火だ!!」

遠くから男の声がした。

「チコリータ!!?」

少女の声だ。女の子がポケモンの名前を叫んでいる。カスミとイーブイは顔を見合わせる。すぐに誰の声かわかった。

「イーブイ! 今のミズカの声よね!!」
「ブイ!!」

イーブイは走っていく。カスミもピカチュウにトゲピーを預けると、イーブイを追いかけていく。カスミがイーブイの後を追うと川沿いに出た。遠くのほうでチコリータを抱いたミズカが激しい川に流されている。

「ミズカ!」
「ブイ!」

追いかけることも出来ず、カスミもイーブイも呆然と流れていくミズカとチコリータを見つめることしかできない。

流されながら、ミズカは懸命にチコリータを抱きしめていた。激しい流れに抗う方法はわからないが、とにかくチコリータには無事でいて欲しい。絶対に離さないと心に誓う。

流れは激しい。どんどんどんどん流されて行く。まるでジェットコースターのようにも感じられ、川の外の景色が目まぐるしく変わっていく。

「大丈夫、チコリータ! あたしが絶対に守るから!」

ミズカは覚悟を言葉にする。抱きしめる腕に力が籠もる。チコリータはそんなミズカを見つめる。温かい。元主とは全然違う。彼は自分を助けようともしなかった。むしろ、落ちたところを見て、笑っていたように思う。

しかし、目の前の少女は、先程まで引きつった表情で見ていた川に躊躇なく飛び込んだ。そして、自分を助けようとしている。

この少女なら……。チコリータはミズカの気持ちに応えるように、彼女にしがみついた。ミズカは口角を上げる。進行方向を見て、どう助かろうかと考え始めた刹那、ミズカは「あっ!」と声を上げた。

先がない。ということは、滝になっている。

ーーまずい……。これじゃ、またチコリータ大ケガしちゃう……。

ミズカは背筋が凍る。川に流されたことも滝に出会すことも初めてだ。数秒もしない内に、ポケットに空のモンスターボールがあることに気がつく。そういえば、昨日、野生のポケモンを捕まえようとして、ポケットに入れていた。

その後はチコリータの看病で、すっかりポケットからモンスターボールをリュックに戻すのを忘れていた。

滝は勢いよくミズカとチコリータに迫ってくる。ミズカは滝に落ちたことがない。正直どうなるかはわからない。が、亡骸はサトシ達が拾ってくれるだろう。チコリータの面倒も見てくれるはずだ。

自分が助かる方法を捨てた。

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