27章 覚悟

そんなふうにエーフィが必死になったのは、ミズカのパートナーになると決まった日を思い出したからだ。それはミズカがポケモン世界へ再び来る一週間前のこと。

「お前さん達、一人の女の子がこれから旅をするんじゃがパートナーになってくれんかのう?」

研究所の中から声が聞こえてくる。オーキドの声だ。後は、カントーには珍しく、ジョウトの初心者ポケモンが話を聞いていた。最初、彼らはオーキドの頼みに了承していた。

「ミズカという少女なんじゃが……、問題があるんじゃよ。ミズカというのはじゃな、違う世界に住んでおって、その上、父親に命を狙われておるんじゃ。もしかしたら、お前さん達にも危害があるかもしれん」

オーキドの説明に、ポケモン達はミズカのパートナーになることを嫌がった。危ない目に遭ってまで、少女と旅をしたいとは思わなかったのだ。オーキドは少し説得をしたが、やはり無理だった。仕方なく諦めた。そのあとに自分が買って出た。

だから、もしかしたら、あのときと同じことになるのではないかと思った。危険に遭いたくないと。エーフィ自身、自分の力だけでは足りないことをわかっている。だから、必死にお願いした。できれば、ミズカから離れないで欲しい。自分はミズカを守りたい。

そう伝えると、ミズカのポケモン達は吹き出した。最初、エーフィはなぜ笑われたのかわからなかったが、やがてサーナイトがエーフィに話し出した。

皆、エーフィと同じ気持ち。旅には危険がつきものだから、そんなことは気にしていない。ミズカの性格はわかっている。気にしているのはミズカが一人でまた抱え込んでいることだ。一人で泣いていないか心配。

手紙には、自分達に伝えれば、気持ちが揺らぐとあった。それは自分たちを大切に思ってくれ、さらに一緒にいたいという証拠。それのどこを怒れというのだ、と。

ミズカに縛られているつもりはない。自分たちは好きでミズカと一緒にいる。だから、戻って来たときにミズカが安心できるように待つ。一緒に戦うつもり。

エーフィは目を見開いた。みんな、エーフィに頷いている。

最後はチルタリスに、エーフィも一匹で抱えてるねと笑われた。

そんなわけで、彼らはミズカのポケモンのままでいる。ミズカは後できっと連絡するのだろうが、チコリータ、プラスル、マイナンもオーキド邸にいる。本当は行きたかったが、7匹はトレーナーが持てない。だから、待つことを選んだ。

ポケモン達は、ミズカに笑顔で顔を向ける。そして、頷くと、それぞれに声を上げる。

「本当……に?」

ミズカも次第に笑顔になっていく。どうやら、彼らはこれからもミズカと旅を続けてくれるらしい。

「だって、皆にも迷惑掛かるかもしれないよ? それでも……?」

ポケモン達は、ミズカの言葉に戸惑いも見せなかった。彼らは皆、ミズカに一度助けられている。皆、一度は助けられたポケモン達だ。逆に主人を助けようと思っている。

「ありがとう」

ミズカは彼らのために強くなりたいと思った。何でもいい、彼らを守れるくらいの強さ、仲間を守れるくらいの強さが必要だと。

――頑張らなくちゃ。

ミズカの中で覚悟ができた。よし、と気合を入れたところで、後ろから気配を感じた。エーフィも勘づいたらしい。ミズカの服を引っ張る。

「ありがとう。皆戻って」

ミズカはすぐにポケモン達をモンスターボールに戻した。エーフィだけは戻ってくれなかった。ミズカは苦笑すると音を立てないように走り出す。

ノリタカがいる。たしかに、今、感じた。ポケモンセンターに戻るのもありだが、それでは、他の人達を巻き込む可能性がある。とにかく、エーフィとわからないように木々の間をすり抜けて行った。
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