27章 覚悟

ポケモンセンターのすぐ近くにある小さなスペース。ミズカがモンスターボールを投げようとすると、勝手にエーフィが出てきた。

エーフィはミズカを見るなり、飛びついてくる。その瞳はうるうるとしていた。ミズカは体勢を崩しながら、エーフィを受け止める。

エーフィのこんな泣きそうな表情は初めて見た。ミズカはエーフィをギュッと抱きしめ、頭を撫でる。

「エーフィ、ごめん。本当にごめん……!」
「フィ……」

エーフィは弱々しく鳴いた。

「シゲルから聞いた。……エーフィは知ってて、ずっと一緒にいてくれたんだよね。なのに、裏切るみたいなことして、本当にごめんなさい」

エーフィを解放すると目が合った。

なぜ、トレーナーとしてはあまりバトルを重ねられていないのに、エーフィが強くなったのか。それはこのときに備えていたから。ミズカの知らない間に、エーフィはミズカを守ろうとしてくれていた。

「エーフィ……。またお父さんのことで、貴女を巻き込んじゃうかもしれない……」

ミズカはエーフィをまっすぐ見つめる。この世界に来れば、いつでも一緒だった。エーフィがこうやって涙を見せてくれるくらい自分を好いてくれているように、ミズカもエーフィが大好きだ。

本当なら突き放すべきなのかもしれない。エーフィを巻き込んではいけないのかもしれない。

でも、それはエーフィに対しては間違いの選択だった。エーフィの涙が、勝手にモンスターボールから出てくる行動が、それを証明していた。

ミズカは決意する。エーフィが守ってくれるように、きっと自分もエーフィを守るのだと。

「一緒に戦ってくれる? 一緒に……、いてくれる?」

エーフィは自分の気持ちがミズカに伝わったのを見て、口角を上げた。

2年前、自分を助けた勇敢な3歳児が、キラキラした目でポケモンに興味を持っていたことを思い出す。サトシやシゲルの気まずそうな空気をわかりつつ、必死で笑顔で遊ぶミズカにエーフィはなんていじらしいのだろうと思った。

同時に彼女の本当の笑顔を見られたら素敵だろうとも思った。健気に笑顔を見せる彼女は、きっと素敵な人物に違いない。当時のエーフィはそう直感した。

だから、ミズカのパートナーになることにした。2回目にミズカに会ったとき、ミズカには記憶はなかった。しかし、会えた喜びが大きかった。

エーフィが見たかった笑顔。これを守りたいと強く思った。辛いことはあるだろう。偶々旅を一緒にすることになったサトシとも、いずれ気まずくなるだろう。そのときには、絶対に自分がそばにいると決めていた。
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