26章 本当の気持ち

「俺さ。2年前の記憶もちゃんと戻ってないし、まだ整理はついてない」
「……」
「だけど……。2年前の記憶がないから言えることかもしれないけど、俺を捨てた父親よりミズカの方が大事だってことはハッキリ言える。それは記憶が戻っても言えると思う」

サトシの口から、そんなことを聞くとは思わず、ミズカは言葉に詰まった。

「……ミズカは2年前のことを思い出して、そのときの俺の気持ちも全部察してるのかもしれない。きっと俺、ミズカを傷つけたんだと思う。だけど、今の俺はミズカに父親を奪われたなんて微塵も思ってない。だって、ずっと旅してたんだぜ? 異母兄妹だって知ったからって、俺はもうミズカを知ってる。ミズカといて楽しいことを知ってるんだよ」

具体的に話すのが苦手なサトシは、かなり頭を使って話した。きっと記憶を蘇らせていれば、もっと説得力のあることを言えたに違いない。それでも言いたいことを、ミズカに伝わるように真剣に話した。

ミズカの瞳が揺れる。こんな話、嬉しくないわけがない。整理がついていないのに来てくれた。それだけでも、ミズカは密かに感動していた。

縁を切ると言われたのに来るなんて、相当勇気がいったはずだ。それをもしかすると、また突き放されるかもしれないのに、真正面からぶつかってきてくれた。

もう知っている。一緒にいて楽しい。

それはミズカがサトシに言えることでもあった。最も、だからこそ、ミズカは突き放したのだが。

「なあ……、ミズカ。本当はどう思ってるんだ?」

一通り自分の気持ちを打ち明けたサトシは、今度はミズカの気持ちをと問う。

「……どう思ってるって?」
「本当は、あっちの世界に行きたいんじゃないのか?」

ミズカは黙った。本当の気持ちを言ったらどんなに楽だろう。きっと、仲間といたいと話したら、彼らは受け止めてくれるだろう。しかし、それでは迷惑がかかる。

それに、もしまたポケモン世界へ行き始め、途中で父親に会ったりしたら……。仲間は傷つく可能性だってないわけではない。だったら、この世界で過ごしているときに、父親にポケモン世界に無理矢理連れて行かれた方がマシなのではないか。

「迷惑が掛かるなんて考えないで欲しい」

シゲルは、優しく言う。ミズカは気がついたら下がっていた顔をゆっくりと上げた。

「みんな、あんたが心配なのよ……。だから、一人で抱え込まないで……。ミズカの悪い癖よ?」
「カスミ……」

カスミはミズカの肩をギュッと掴んだ。本心を話してほしいと願っているように感じる。サトシやシゲル、ピカチュウを見る。

彼らは本気だ。本気じゃなきゃ、わざわざ違う世界になんて渡って来ない。ミズカは、深呼吸をする。ちゃんと本心を話そう。やがて口を開いた。

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