26章 本当の気持ち

「あいつの部屋かも」

折角閉めたドアを勢いよく開けて、ミズカは同じく三階にあるタカナオの部屋に飛び込んだ。彼が3階に上がって来る前に、三人の荷物とピカチュウを抱えてきた。

幸い、タカナオに見つかることはなかった。ドアを締めたところで、タカナオが自分の部屋に戻っていく音が聞こえた。

「間に合った……」

小さく息を吐く。抱えたピカチュウはミズカを見上げた。

「ピピカ!」
「ピカチュウ、久しぶり」

ミズカはピカチュウを見るとニコッと笑った。ピカチュウはミズカに会えて少し安心したようだ。ミズカとサトシとの関係は、ピカチュウなりに理解はできた。

兄妹であるが、それを本人たちが知らなかった。そして、二人の父はミズカに酷いことをしようとしている、と。

ピカチュウはギュッとミズカにしがみつく。本当はエーフィがいればと思ったが、エーフィはオーキド研究所だ。今はエーフィの代わり。

ミズカはそんなピカチュウの心を読むことはできなかったが、優しさは十分に伝わった。頭を撫でて、ピカチュウを降ろした。

「……なんで来たの?」

お茶を口に運びながら聞いた。三人は顔を見合わせる。

「ミズカがオーキド博士に宛てた手紙を読んだんだ」

ピカチュウを抱き上げながら、サトシは言った。今日で何度目だろうか。ミズカは再度ため息をついた。

まさか手紙を読まれていたとは思わなかった。道理で気まずいはずのサトシが来るはずだ。サトシはピカチュウをギュッと抱きしめるとミズカを見つめた。

「なんで……、俺に何も話してくれなかったんだよ……」

ミズカは黙る。部屋の外からは、タカナオが塾らしく、「いってきます」と聞こえてきた。タカナオが階段を降りる音が聞こえる。

「話したくなかったから」

ボソッと答えた。ミズカは三人の顔を見れずに俯いた。

「話したくないに決まってるじゃん。サトシにはとくに……」

ギュッと拳を握る。サトシはミズカが実父に殺されそうになっている事実を知ってどう思っただろう。きっと動揺しただろうとミズカは思う。

「それに……、皆にも言ったら迷惑かけるし……」
「迷惑なんて……、思わないわよ……」

ミズカの言葉に、カスミは心配した表情で返した。カスミだって、いまだに二人が兄妹であることに驚いているし、実感はない。だが、ミズカが家族のことで悩んでいたことをカスミは知っている。

今更、迷惑なんて思わない。兄妹の件はミズカとサトシの問題であって、自分は関係ない。ミズカはミズカだ。自分の親友だ。サトシの妹と知ったところで、その事実は変わらない。

むしろ、カスミにとっては、それでミズカと一生会えなくなる方が嫌だった。
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