26章 本当の気持ち

「それが、ちゃんと話してくれなくて……。遠くにいる人で、ポケモンのシゲルに似てるってだけ」
「ふーん。そうなんだ?」

カスミに顔を覗かれる。完全に面白がられている。そんなところで、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。ミズカはホッと胸を撫でおろした。

帰り……。ミズカは帰りのホームルームが始まる前に教室を出た。テニス部員に会いたくないという意思である。

先生にはあらかじめ話して許可はもらっていたのだが……。

「……で、なんでいるの?」

ミズカはため息混じりに、ジロッとカスミを見た。

「なんでって、先生にミズカが心配だから一緒に帰るって言ったのよ。後ろの二人もね」

カスミは後ろを見た。ミズカも後ろを見ると、シゲルとサトシがいる。

「ていうか、先生はそれで良いって言ったの?」
「えぇ、皆に挨拶したら、追いかけて良いわよって……」
「……あっそ」

ミズカはため息をついた。そのまま黙って、自分の家に向かう。家までは、とても長く感じた。

「……あたしは、ポケモン世界にはもう行かないよ」

家の前に着き、口を開けたのはミズカだった。

カスミがいつも通りであろうと、シゲルが気まずさをなくしてくれようと、サトシが来てくれようと、ミズカの気持ちは変わらない。

それに彼らがどこまで知っているのかをミズカは掴みきれていない。

「それじゃ、送ってくれてありがとう」

玄関のドアを閉めようとした。しかし、カスミはドアノブを引っ張って、それを止める。ムッとした表情だ。

「待ちなさいよ。あたし達もあんたの家に入るわ。いいでしょ?」
「え……」
「お邪魔しま~す!」

ミズカが返事をする前に、カスミは声を上げた。中に母がいる。さすがに家に入れないわけにいかない。カスミはお構いなしに入って行ってしまった。シゲルも、謝りながら家に入る。そして残るはサトシ……、目が合った。

2人の間に気まずい空気が流れる。

「二人とも入ったし……、入りなよ」

ミズカは仕方なくサトシを誘う。この間、あんな事を言った手前、躊躇いはあった。だが、それでもサトシは来てくれた。そんなサトシを無下には出来ない。

「あ……、あぁ」

ぎこちない返事をして、サトシも入って行った。
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