26章 本当の気持ち

授業の時間、ミズカは全く内容が掴めなかった。まず意味がわからない。ちなみに今は数学である。

――……三角形の合同条件の証明? てか、合同条件って、まず何?

根本的な事からわからない。ちなみに、中学二年生でこれを知らなければ後々詰まる。証明がその一つだ。結局、何もわからずに数学は終わった。その後の十分休憩、ミズカは、机にうつ伏せになっていた。

もうここまでくると手遅れだろうとミズカは思った。わかろうとしてはいるのだが、全くわからない。それどころか、先生が外国語を話している気さえしていた。

彼女のやる気は意図も簡単に削がれた。もともと勉強が人一倍嫌いなのだ、不登校の時は当然していなかった。

来るんじゃなかったと、今更だが、そう思った。

「あー、わからないよ! だいたい、シゲルはなんで、こんなのがわかるんだよ!」

後ろから、サトシの声が聞こえてきた。 そういえば、カスミとは話したが、サトシとシゲルとは一言も話していない。サトシにはあんなことを言った切り、こちらから話そうとも思えない。

シゲルとは自分が勝手に気まずくなっていた。

――……シゲル、わかるんだ……。

多分、教科書を最初から読んで理解したのだろう。日頃、研究者として色んな場面で頭を使ってる彼だ。それくらい、簡単に理解出来るのかもしれない。

「証明なんか良いよ。二つの三角形がどちらも同じ形で同じ大きさなら、それでいいじゃん」
「たしかに、シゲルがわかるのが不思議よ……」

サトシとカスミはすっかり頭を抱えてしまった。

三角形の合同の証明というのは、同じ三角形が何かしら二つあるのだが、それが、どうして同じ三角形と言えるのかを、合同条件というわけのわからない物で証明すると言うもの。解くには、辺やら角やらを使う。

とにかく面倒臭いし、三角形の合同条件を知らないミズカには、意味がわからず解けない。ようするに、サトシもカスミも、教科書を全く読んでいない。解けるわけがなかった。

「まあ……、今日だけだから覚えなくても平気だと思うけどね」

そんな二人を見て、シゲルはパタッと教科書を閉じた。三人の視線は自然とミズカに向く。ミズカはすでに次の授業の準備をしている、

「あんた、話してきなさいよ」
「え……、いや、でもさ……」

カスミの言葉にサトシは躊躇いを見せた。いくらミズカの心の内がわかったところで、話しかけるのはちょっと勇気がいる。サトシも自分らしくないことはわかっているのだが、今回は勝手が違った。

そんなこんなで、次の授業が始まってしまった。そして、同じ事の繰り返し……。結局、サトシはミズカに話しかけられなかった。
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