「俺、サトシ。よろしくな！」
「僕は、シゲル。よろしく」
「あたしはカスミ！　一日よろしくお願いね！」

名前を聞いたクラスメイト達は、またざわついた。無論、名前があまりにもポケモンアニメの登場人物で、しかも、顔も似ているからだ。まさか本人達だとは誰も思っていないのだが……。

いくらこの歳でポケモンを見ていなくても、みんな昔は見ていたという人が大半だ。そのクラスメイトの表情にミズカは冷や汗が垂れてくる。

――てか……なんで来たの……、この三人。あたし、もうあの世界には行かないって言ったのに……。年齢はともかく、その前にどうやって、学校に入れた？　住民票とか……必要なんじゃ……。

ミズカは混乱する。怪しい光を受けたのか、自分の手の甲を抓ってみる。普通に痛い。現実だ。

「何嫌そうな顔してんのよ？」

混乱していると、カスミが勝手にミズカのそばまで行き、顔を覗かせた。サトシとシゲルは、呆れた表情を浮かべる。クラスメイト達は、何の事だかわからず、ただ口をポカンと開け、ミズカとカスミを見た。

「カスミ……、あのさ……」
「あんたねぇ、親友が折角会いに来たのに、その顔はないでしょ！」
「親友！？」

クラスは到頭収拾がつかないほど騒ぎ出した。ミズカは頭を抱える。学校に来て初日からこうなるとは夢にも思わなかった。

「あのさ……。カスミ……、言いたい事はわかったから、その……、……席に座ろ？」

ここは思い切り、怒りたいところだが今の状況ではまずい。ミズカはグッと堪えて、優しく注意した。

「二人も座っていいわよ」

唖然としていた先生もやっと口を開いた。サトシとシゲルは、すみません。と苦笑しながら謝って座る。なるほど、空いていた席はこの三人の分だったわけだ。

「ねぇ、ミズカの友達なの！？　てかそれ、知ってて今日は来たの？」
「カスミは昔からの親友。今日は……、全く知らなかった……。あたしもめっちゃ驚いてる……」

リンに聞かれ、そう答えた。彼女から言わせれば、もう会わないと決めていた人物たちだ。知っていたら、学校に来なかっただろう。

ホームルームが終わり、１０分休憩に入ると、ミズカは先生にさっき自分が教室に入った時の空気の重たさについて聞いてみた。

「あぁ、ごめんなさい。皆に話して、あなたを驚かさないように、普通にしててと言ったのよ……。それが悪かったみたいで……」

なるほど、普通と言う言葉を変に考えすぎて、あんな静まった空気の重い教室になったと言うわけか。

「でも皆、あなたが来るのを楽しみにしていたのよ」

そう言われ、ミズカは笑顔になった。心は少し穏やかだ。

「それに、今日だけ来たサトシ君達は、あなたの友達みたいだし良かったわ」
「え、あ。はい、あたしも驚きました」

ミズカは笑って見せた。今は複雑な心境だ。

「じゃあ、頑張って」
「はい」

先生は、教室を出て行った。それを見送り、席に座った。