25章 突きつけられる真実

ミズカは平静を装う。サトシに睨まれている。ミズカの考えた通りになってくれた。

最後にサトシの優しさに触れられて良かったと思う。俺なら気にしない。受け入れてくれないなら、せめて他の友達とは繋がっていてほしい。

サトシらしいと思う。本来ならミズカだって、そのサトシの優しさに頷いていた。最もサトシが罪悪感を抱く必要はないのだが。ミズカはサトシが許してくれるなら……、受け入れてくれるなら……、ずっと一緒に旅をしていたかった。

ミズカは、すぐそこにいたヒカリに手鏡を預けた。

「これは……?」
「この世界ともとの世界を自由に行き来できる物。あたしには、もう必要ないから」

まだ手鏡の事を知らない彼女に軽く説明した。ヒカリは返そうとするが、言葉が見つからない。

「それじゃ。元気でね」

そう言ってドアの向こう側へ一歩進むが、一瞬立ち止まった。

「……エーフィをよろしく」

一つ気がかりがあるとすればエーフィだ。傷ついたエーフィに何も告げずに消えるなんてトレーナーとして失格だ。他のポケモンたちに対しても言える。だが、ポケモン達に会えば、覚悟が揺らぐことは間違いない。

ミズカは心のなかで謝りながら、ドアを閉めた。サトシ達は呆然と立ち尽くして見ているしかなかった。

もとの世界に戻って来たミズカは、その場に座り込んでいた。抑えていた物が一気に溢れてくる。

「いいの。これで……、これで良いんだよ……」

本当は辛かった。苦しくて苦しくて、サトシに殴られた頬を撫でる。もう痛みはない。しかし、サトシの悲しそうな表情はしっかりと覚えている。

「ごめん……。サトシ……、みんな……」

サトシのさっきの言葉が繰り返し頭に流れ込んだ。

『お前の仲間に対する気持ちって、そんなもんだったのか? そんなにすぐ、捨てられる物なのかよ!?』

そんなわけがなかった。目を瞑れば、たくさんの友人たちが思い浮かぶ。自分で選んだ道。手鏡を向こうの世界へ置いてきた。そのくらいの覚悟だった。

――皆……、大事だよ。皆、あたしの……仲間だよ。

だからこそ、ミズカは彼らを巻き込みたくなかった。とくにサトシを巻き込むわけにはいかない。友達だから、あんな喧嘩を吹っかけてまで、縁を切った。

ミズカは、ベッドに潜り込んだ。その夜はずっと枕を濡らしていた。
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