3章 チコリータ、ゲットだぜ!

2人はチコリータに視線を落とす。野生のポケモンとの争いだったとして、ここまで痛めつける意味は何なのだろうか。縄張り争いではない。しかし、さっきミズカとタケシが川の方へ出たときには、タケシは何もなかったと話していた。

タケシが少しあたりを見回したのは、野生のポケモンが縄張りを持っている可能性を考えてだ。とはいえ、2人共経験上、ここに野生のポケモンの縄張りがあることが少ないことくらいわかっている。

この森は舗装された道が通っている。その道にいたから、サトシ達は偶々ミズカと会えたのだとも言える。ミズカが道の上にいなければ、きっと会えなかった。でもだからこそ、野生のポケモンは避けるのだ。人間に会わないように。

サトシはしゃがんでチコリータの体を撫でた。彼が旅をはじめた頃、オニスズメに襲われたが、ピカチュウはここまで傷ついてなかった。ピカチュウが電撃を走らせて追い払ったからだ。

チコリータは反撃をしなかったのだろうか。反撃できないとしたら、その相手はーー

「トレーナー……?」

サトシとカスミが呟いたのは同時だった。ミズカは顔を歪めた。

さっきまで、こんなに傷つける人間はいないと思っていた。ポケモンの世界は、優しくて強い世界だと思っていた。ポケモンを痛めつける人なんていないと思っていた。思いたかった。ここが現実の世界である以上、そんなことないのはわかっていたのに。

ミズカはチコリータの額を撫でる。もし人間がやったのなら、すごく悔しい。チコリータは、きっと人間はこういう生き物だと思ったに違いない。

「やめようぜ!」

サトシが思考を断ち切るように声を上げた。

「こんなこと考えてたら切りがないぜ?」
「そうね。今はチコリータの回復を願いましょうよ。昼食できたみたいだし、気分転換にご飯行こ!」

サトシの言葉を受けて、カスミは頷く。気を取り直すようにミズカに話し掛けた。

「うん……。わかった」

ミズカはそんな気分ではなかったが、確かに考えても仕方がない。それに2人を困らせるつもりもない。立ち上がって、席に着く。

タケシが作ったサンドイッチは、あまり喉を通らなかった。レタスにゆで卵のスライスしたものに、マヨネーズという組み合わせはミズカの大好物だ。美味しいはずのご飯が喉に通らない。

「ごちそうさま……」
「ミズカ……、全然、食べてないじゃない」

カスミは心配そうにミズカを見た。

「お腹空いてないから……。タケシ、ごめん」
「とっておくから、お腹が空いたら言ってくれ」
「有難う」

ミズカはお礼をいうと、チコリータの側へ行ってしまった。

「ミズカ、大丈夫かしら」
「この世界を知ったばかりだから、ショックが大きいんだろうな」

タケシの言葉に、カスミはハッとする。ミズカは、アニメで知っているとは言っていたが、生でポケモンを見るのは前回が初めてだ。

2回目に来て早々に傷ついているポケモンに出会えば、確かにショックは大きくて当然だと言えた。それに自分が何も出来なかったことも落ち込む原因なのではないか。

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