サトシがヒカリ達のところに戻ってきたのは、ミズカが出て行ってすぐだった。サトシの暗い表情を見て、すぐに二人はミズカと何かあったと悟った。

「なぁ、サトシ……、ミズカと何があった？」
「悪い。俺、少し休む」

タケシが声をかけるも、サトシは聞く耳を持たず、ベッドに寝転がってしまった。ずしりと身体が重い。

ミズカが妹であったことは確かに衝撃だった。とはいえ、どこかで納得した自分がいるのも事実だった。似ていると言われていたり、ミズカに対しては他の仲間とは少し違う感情があったりした。その感情が、家族としてならサトシは納得だった。

「ピカピ……」
「ピカチュウ……、ごめん、しばらく一人にしてくれ」

ピカチュウが心配そうに声をかける。サトシは一人になりたいらしく、優しくそう言った。ピカチュウは少し泣きそうだった。サトシの感情を悟っているのもあるし、自分と一緒にいようとも思ってくれないことが少し悲しくもあった。

「ピカチュウ。ちょっとエーフィの様子でも見に行きましょうよ」

堪らずヒカリが言った。ピカチュウは頷く。そして、ヒカリ、タケシ、ピカチュウは部屋を後にした。

サトシは天井を見つめる。まだサトシは気持ちを思い出してはいない。しかし、オーキドの話の後、ミズカは自分と目を合わせてはくれなかった。

記憶になくとも、２年前にミズカに会ったときの感情は想像がついた。異母兄妹と言われた自分はおそらくミズカに酷いことを思っていたのではないか。それをミズカも察していたのではないか。

目を合わせてくれなかったことが堪らなく辛かったが、当然だとも思う。いつもは積極的にお節介をするのに、今回は自分が原因。しかも記憶が戻っていないから、尚更、ミズカに掛ける言葉が見つからない。

謝って解決する話でもない。

サトシは、何も考えたくなくなった。ただ、ぼーっとしていたい。このまま、夢だったと覚めてくれれば良いとさえ思う。

どのくらい経っただろう。誰か部屋に戻って来た。サトシはチラッと見る。ミズカだった。ミズカはサトシがいることをわかってはいたが、やることがあって戻ってきた。

ヒカリとタケシがいなくてホッとする。リュックから紙とペンを出した。いつもオーキドがやっていた方法。自分がもとの世界へ帰れば、オーキドのもとにリュックが転送される。ミズカはオーキドに手紙を書いていた。

書くことが決まっていたからか、それほど時間を掛けずにリュックにしまった。ドアノブに手を掛ける。一瞬、言葉を考えてからサトシに話しかけようかと考えた。しかし、なるべく早くケジメはつけないとならない。エーフィが起きてきたら、覚悟が揺らぐ。

今この部屋は２人だけ。ここしかない。