25章 突きつけられる真実

――どうしよう……。あの時の事……思い出した。

ミズカはごくりと息を飲んだ。なぜ今まで忘れていたのだろうか。そのくらい、ミズカはハッキリと鮮明に思い出した。すごい剣幕で怒鳴ってきたオーキドに怯えた自分は、なんでこんなところに父親は連れてきたのかと思った。

怒られるところに連れてこられたと。母は隣にいない。タカナオの出産で入院している。

息を潜めているシゲルは、困惑している。けれども、ミズカは大人だけでないことにホッとしていた。そんな彼は、ミズカをちらりと見て、向こうへ歩いて行ってしまった。

オーキドと父の間に沈黙が流れる。ミズカはノリタカの服をぎゅっと握った。

「サトシに会わすわけにはいかん。お前さん、今はこの子の父親じゃろう」
「でも、サトシの父親でもあります。当然会う権利はあるでしょう?」

サトシの父?
ミズカは首を傾げる。父には、他に子どもがいる。それだけは3歳の頭でなんとなく理解できた。

「お前さんにその権利はない」
「何故です? サトシから父親を奪ったのは、こいつじゃないですか。こいつさえ生まれなければ、俺はこの世界にすぐ戻って来ました」

そのときのミズカには意味がわからなかった。が、鮮明に思い出した今、やっと理解する。

だから、サトシ達と遊んだとき、あんなに空気が淀んでいたのだと。サトシが遊んでいるときに何かを堪えるように笑っていたのを思い出す。辛くないはずはない。

自分を捨てた父親に妹がいるなんて、そんな冗談みたいな話を受け入れられるわけがない。

シゲルだって、最初に会ったときに道理であんな顔をするはずだ。ジョウトリーグの嘘は彼の優しさだったのだ。こんな自分の代わりに、エーフィを探してくれていたなんて……。シゲルに申し訳がない。

ミズカはギュッと拳を握った。サトシの顔を見るのが怖い。ずっと友達だと思っていた。サトシとは喧嘩なんてしたことがない。一緒にいれば楽しいし、まるで家族のようだと思ったこともあった。

まさか、本当に家族だったとは……。いや、自分は望まれて生まれてきていない……。いくらサトシでも、自分を家族だと思ってくれるわけがない。

もちろん、元を正せばノリタカが悪い。だが、どうしてもミズカは自分がいなければと考えてしまう。つまりは、自分がサトシから父親を奪ったのだと。

その事実が、ミズカの心に強く突き刺さった。申し訳ない。どう償えばいいかわからない。これだけ仲良くなったからこそ、余計にミズカは辛かった。

「あたし……」
「……ミズカ?」

サトシは、俯くミズカの顔を覗こうとしてきた。ミズカは目に溜まった涙を必死に堪えた。身体が震えている。顔を覗くサトシから、顔を逸した。とてもじゃないが、サトシの顔なんて見られない。逃げるように走り部屋に向かう。

バタンッと勢いよく部屋に入って来たミズカにヒカリとタケシは驚いた。部屋に残っていたピカチュウも心配した表情である。

ミズカはドアを背に、その場に力なく座った。サトシから逃げてしまったことに、今になって気づく。 こんな事実から逃げたいのなんてサトシの方なのに。
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