24章 攫われたエーフィ

一方、ミズカはシゲルの「いずれ」という言葉に思わず顔を上げた。彼の表情は暗い。同時に、夢の中で幼い頃の自分が見たシゲルの表情と重なった。

それから思い出されるのは、殴られたときに霞んで見えた男の人の顔だ。あれは……、父に似ていた。だとしたら、エーフィが攫われたのは、間違いなく自分のせいに他ならない。

今目の前にはおそらく真実を知っているシゲルがいる。ミズカはごくりと息を呑む。ここまで来たら、真実を聞くしかない。

「そ、それって……。犯人が……、あたしのお父さんだからってこと? 前の……お父さんだからって……こと?」

恐る恐る自分に聞くミズカに、シゲルは目を見開いた。驚いて、開いた口が塞がらない。

「そうなんだよね? あたし、森でお父さんを見たの……。ジョウトリーグの時、話してたミズカって女の子は、あたしなんでしょ? ……お願い、話して」

やっとシゲルはミズカが自分から嫌われていると思っている理由を知った。とはいえ、言い方としては確認するような感じだ。思い出しているとは思えない。

しかし、ここで頷かなければ、きっとミズカはシゲルの静止を振り切って、ここを出て行くだろう。

シゲル自身は知って欲しくない。あのときのことを思い出すほど、胸が苦しくなる。真実を知られたくないが、いずれはミズカもサトシも知らなきゃならないことだ。それが、すぐ間近に迫っている。

「……そうだよ」

少し躊躇いながら、シゲルは口を開いた。

「僕とサトシが八歳の時、遊んだ女の子は……君だよ」
「やっぱり……。じゃあ……、サトシとあたしは、その時の記憶、消されてるよね?」

記憶を消されている。そこまでわかっているミズカに首を傾げた。

「ああ……。だが、なぜそこまで、知っているんだい?」
「前に夢で見たって言ったでしょ? しばらく経って同じ夢を見たんだ。その男の子がシゲルとサトシだった。その後でまた夢を見た。うっすらとしか覚えていなかったけど、サトシが倒れてたから、記憶を消されたのかなって……。でも、肝心な所がわからない。あたしを狙ってエーフィを盗んだ理由も」

シゲルは肝心な所がわからないと聞くと少しホッとした表情を浮かべた。まだわかっていない。あのとき、シゲルやサトシが何を思っていたのか。ただでさえ、エーフィがいなくなって辛いはずなのに、辛い事実を突きつけらるわけにはいかなかった。

「……教えてくれない?」

ミズカが聞く。しかし、シゲルは首を横に振った。

「すまない。今の話に間違えがないのは言っておくが、オーキド博士からは口止めされていてね。それは言えないんだ」
「……そっか。オーキド博士に口止めされてちゃ、しょうがないよね。それじゃあ、あたしは……」

シゲルからそれ以上聞くのをやめた。ミズカはエーフィを盗んだ犯人である実の父を探そうとベッドを降りる。まだ頭はガンガンする。立ち上がったら、ふらつきそうだ。

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