24章 攫われたエーフィ

「……う」

ミズカが気づくとベッドの上だった。一瞬さっきあったことは夢だったのではないかと思ったが、後頭部がガンガン痛み、夢でなかったと認識した。

ゆっくり起き上がり、ズキッと痛む頭を押さえる。触って気づく。頭には包帯をしていた。どこで、どうなったのか。何故、ベッドに寝ているのか。何故、包帯が巻かれているのか……、ミズカは思い出せない。

「起きたみたいだね。大丈夫かい? あ、オーキド博士やケンジはいなんだ」

声をかけられて顔を上げた。読んでいた本をパタンと閉じて自分に声を掛けたのは、オーキドの孫、シゲルだった。

「ここ……。もしかして……、オーキド研究所?」
「聞かれても……。自分が来たんじゃないか」

シゲルに言われ、ミズカは首を傾げた。シゲルは目をパチクリさせ、

「まさか、記憶にないのかい?」

と聞いた。ミズカは頷く。彼女は無意識にマサラタウンに来ていたらしい。シゲルは内心さっきの出来事をなしにされて、ホッとしたような不安なような気持ちだった。

誤解を解いたはずが、まだミズカは自分に誤解をしている。しかし、そんな話を掘り返すよりも、今はミズカに遭ったことを聞くことが優先だった。

「そうか……、無意識でここに……」
「何がなんだかわからないけど、……あたし、行かなきゃ」

ベッドから降りようとすると慌ててシゲルは止める。さっきの会話を覚えていないミズカがシゲルを頼ろうと思うはずもなかった。

「無茶をするな。今、自分の状況がわかっ――」
「わかってる! だけど、行かなきゃいけないの。助けに行かなきゃ……」

シゲルの言葉を遮る。彼は、まじまじとミズカを見た。彼女は今にも泣き出しそうで悔しそうな顔をしていた。

「助けに……? 一体何があったのか、詳しく話してくれるかい?」

シゲルはごくりと息を呑む。それはミズカの父親の顔が浮かんだからだ。

シゲルはもしかしたらミズカの父が接触してくるかもしれないと、最近、オーキドにミズカをこの世界に呼んだ理由を聞いたばかりだった。

ミズカはゆっくり事情を詳しく説明した。話している間、彼女はずっと俯いたままだった。

「それで……、起きたらエーフィは……」

悔しくて、ギュッと布団を握り締める。声を震え、目に涙が溜まっていく。空になったモンスターボールを思い出す。あそこからいつもは元気に出てきていたのに。

「あたしのせいなの。気をつけて、ひと気がある所を通っていれば……」
「君のせいじゃない。それに、おそらくいずれそうなっていたと思うよ」

シゲルは確信に近かった。オーキドは、ミズカの父ノリタカは、おそらくポケモン世界での接触しようといているだろうと言っていた。

エーフィを奪えば、ポケモン世界でミズカと接触できる。エーフィはポケモン世界にしか存在しないから、もとの世界で探しても無意味なのだ。

しかし、シゲルは少し疑問に思う。ノリタカの目的を知っているシゲルにとっては、不思議な行動だった。まだミズカには言えない。だから、口を閉ざす。
9/14ページ
スキ