24章 攫われたエーフィ

しかし、六月。

「お前ら、人数少ないんだら、後期は委員会をやるなよ」

そう部員全員が顧問に言われ、ミズカは絶句した。たしかに、二年生になってから、先輩達はそろそろ引退時期で部活に出て来なくなる。

しかも、新入生は二人しかテニス部に入って来なかった。

確かに、人数の少なさを考えれば顧問の言いたいことはわかる。しかし、ミズカの場合は顧問と学級委員はやっていいと約束していた。

全員の前で協調性を促す言動をするということは、ミズカとの約束を覚えているからだ。とはいえ、一言何かあってもいいのではないかと思う。

嘘つく形になってしまって申し訳ない。その一言すらないのだから、顧問の誠実さはまるでない。仕方がないのはわかっているが、ミズカは言うことを聞く奴隷になった気分だった。

その日からまたミズカの体調はどんどん崩れていった。治る気配はない。大好きだったテニスだって、今は地獄にしか感じない。

九月中旬になると、ミズカには笑顔がなくなっていた。笑うのも疲れた。何をやっても楽しくない。テニスだって、一番手は一瞬だけだった。その上、地区大会で優勝したら顧問に怒られる始末。

「一番手に勝ったからって調子乗るなよ」

試合で負けたらお前のせいだと言っていたくせに。勝っても怒られるとは思っていなかった。

しかも一緒にペアを組んでいる子は、ミズカのミスが重なると不機嫌になる。自分だってミスをすることはあるじゃないか。ミズカはそれに対して不機嫌になったことはない。

そんなことが重なりに重なって、人を信じられなくなっていた。人というものが恐く、部活も今まで以上に出れなくなった。それどころか学校にさえ、あまり行けなくなっていた。

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