23章 スイクン伝説

「あんたねぇ、今回はサトシ達に言ったから安心したけど、そういうのは早めに言いなさいよ!」

カスミのお説教を受けているのはミズカである。電話越しに苦笑する。スイクンの1件を解決し、一行は近くのポケモンセンターにいた。

「でも……」
「でもじゃないでしょ。散々心配したんだから!」

その言葉から、ミズカは喉に詰まるものを感じた。

「……ごめん。カスミが一番最初にあたしの様子に気づいたのにね」

素直な言葉が出る。カスミは表情を和らげた。

「当たり前よ……、あたしを誰だと思ってんのよ」
「ごめん……」

ミズカはいつになく暗い表情だった。

「いつものミズカらしくないじゃない」
「……最近、すごく心配になるの」

少し躊躇いながらも、ミズカは、まだサトシ達に言っていないことを話すことにした。

「……え?」

カスミは首を傾げた。

「なんか最近急に仲良くされて……」
「誰に?」
「部活の同級生……」

カスミはその言葉に目を見開いた。

「それって、手紙の事と関係あるの?」

電話の中ですでに手紙の件は話してある。その話を聞いたときは、自分のことでもないのに、カスミは怒っていた。

「わからない……。でも、多分そうだと思う」
「あんた、それって……」
「そう。上辺だけ仲良くしてるって感じ……」

ため息をつき、ミズカは言う。その表情は寂しそうだ。同級生がミズカと仲良くした理由は一つしかない。単にチクられたくないから。

カスミは、それをわかってなのか、顔をしかめた。

「変なこと言うけど……、あんた……、部活辞めた方がいいんじゃないの?」
「……だろうね」

反抗も怒りもしない。本人も素直にそう思っているのだ。辞めたほうがいい。それはわかっている。

「でも、サトシ達の前で辞めたくないって言った。それに、お母さんを心配させたくないし」
「大事なのは、自分の気持ちでしょ? あんたは辞めたいの? 辞めたくないの?」

鋭い質問をカスミはする。ミズカは少し考える。サトシ達の前で言ったことを思い出す。

好きな物を他の人になんて盗られたくない。その気持ちは今だって変わっていない。だから、ミズカは首を横に振った。

「辞めたく……ない」
「でも……」
「わかってる。これからもっと辛くなることは……。でも、やっぱり好きなもんは好きなの。ポケモンバトルが好きなように、テニスも好きなんだよ……」

ミズカの訴えにカスミは少し顔を歪ませた。バトルと対等なくらい、いや、比べる事が出来ないくらい、彼女はテニスが好きみたいだ。その気持ちがよく伝わって、カスミはため息をついた。

「気をつけるのよ」

優しく言ったカスミの表情はとても温かく、いつも相談に乗ってくれるときの表情だった。ミズカは、彼女の表情を見て笑顔になり、うん、と頷いた。

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