23章 スイクン伝説

「つまり、貴女がこの世界と向こうの世界を接続する際にできる時空の歪みを辿れば、スイクンを見つけるのは容易いことです」

言っていることはわかった。ただ、ミズカにはまったく自覚がない。

「ミズカ、このスイクンと知り合いなの?」
「ううん……。でも、あたしが初めてこの世界に来て……、散歩した時に綺麗な湖で会った……」

マサトの質問に、少し動揺しながらも、ミズカは答えた。だが、それだけではスイクンが自分のそばにいる理由にはならない。なぜスイクンが? ミズカは眉間にシワを寄せる。

「グルルル……」

ガタンと急にスイクンが檻の中で倒れた。

「スイクン!? どうしたの!」
「一ついい忘れてたな。その檻に閉じ込められたポケモンは、痺れを感じるようになるぜ」
「それにしても、ずいぶん踏ん張りましたね……」

スイクンはずっと我慢していたらしい。ずっと痺れを感じていたに違いない。その証拠に、ずっと暴れず、大人しかった。タケシは、リュックから薬を出し始める。助けた時にすぐ治療できるようにしたのだ。

「まさか時間稼ぎだったの……?」
「そういうことです。しかし、折角ここまで話したことすし、特別に全て話しましょう」

バショウは何やら本を出した。とても古びている。


「エーフィ、あたしがバショウの話を聞いてる間に、隙を見てブソンのポケットに入ったリモコンを取ってくれる?」

小声で言うとエーフィは頷いた。ミズカはスイクンが気になりつつ、バショウの話を聞くことにした。さっきブソンはリモコンを操作して捕まえていた。リモコン操作なら、檻を開けるにもリモコンが必要なはずだ。

「この本には、スイクンに纏わることが書いてあります。スイクン伝説のことも……」
「スイクン伝説?」
「遥か昔に北風使いがおり、北風の化身と呼ばれるスイクンは親しかったと記されています。しかし、良く思わない者が、北風使いを時空を使い、別の世界へと飛ばしたそうです。……別の世界とは貴女の世界のことでは?」

スイクンに纏わる話があるのも驚きだが、その中にまさか別の世界についてあるとは思っていなかった。

「まさか、その北風使いってミズカのことか?」
「あたし、遥か昔の人じゃないって……」

サトシの言葉にミズカは苦笑する。エーフィは、そんな彼らを横目にサイコキネシスでゆっくりブソンのポケットからリモコンを出し始めた。

「違う世界から来た子供が来た時、それは北風使いの生まれ変わりと言い伝えられ、スイクンは北風使いの生まれ変わりに会いに来ると伝説に残っています」
「てことは、ミズカは北風使いの生まれ変わりかも!」
「まさか……」

ミズカは、嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちだった。

「でも実際、この世界に初めて来た時、スイクンに会ったんでしょ?」
「え、まあ……」

マサトに言われ、ミズカは頭を搔く。もし、その伝説に出てくる北風使いの生まれ変わりだとしたら、それもこの世界に呼ばれている理由に入るのだろうか。

一瞬そんなことを掠めたが、ミズカの興味はスイクンを助けることに向けられていた。

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