3章 チコリータ、ゲットだぜ!

ある日の夜10時。

「これって……、また、ポケモンの世界に行かして! って言ったら、行けるのかな?」

あの夢のような出来事から、1週間。ミズカは再び、あの世界へ行こうとしていた。

「お姉ちゃん、何やってるの?」

ミズカの弟のタカナオが話しかけてきた。ミズカはビックリして、持っていた手鏡を隠す。

「寝たんじゃなかったの?」

タカナオは幼稚園児、ミズカはもうとっくに寝ているもんだと思っていた。

「ううん、まだ寝てない」

ミズカの家は、みんな同じ部屋で寝ていた。それと言うのも、理由がある。ミズカの家は家計が大変だった母は家庭を助けるため夜に働き、父は仕事が遅い。

ようするに、夜はミズカとタカナオの2人きりで、子供だけなのだ。

「そう……」
「何してたの?」

タカナオはもう一度聞いてきた。なにか隠していることはバレているらしい。タカナオは少し不安な表情だ。どこかへ行ってしまうか。母も父もいない中で、姉までも。

不安げに自分を見上げる彼を見つめて、ミズカはしゃがむ。

「ポケモンの世界に行こうと思って……」

素直に話した。もし行きたいと言えば、一緒に行ってしまおう。サトシ達も受け入れてくれるはずだとミズカは考える。

「嘘でしょ! そんなことあるわけないじゃん! もういいよ」

タカナオは眉間にシワを寄せると、ムッとして、布団に潜った。信じてくれなかった。

ーーあたし達、姉弟は現実的だな。

ミズカは心のなかで苦笑した。彼らは今の現状を現実と受け止めているからか、基本的に子供なら信じることを信じられなかった。

サンタクロースはいない。戦隊物のヒーローにはなれない。タカナオも幼稚園児で理解しているが、ミズカも幼稚園の時から察していた。だからこそ、ポケモンの世界に行ったとき、ミズカはすごく驚いた。

サンタクロースよりもありえない光景を目の前にしてしまった。

本当なのに。隠した手鏡をタカナオに見せようと布団を剥がすのに手を伸ばすと既に寝息が聞こえている。

本格的に寝息が聞こえ始めた頃、ミズカはチャンスだと思って、隣の部屋へ移動した。タカナオには申し訳ないが、ミズカはポケモン世界に行きたかった。

「あたしを、ポケモンの世界のサトシ達の所に連れてって!」

小さな声で手鏡にお願いする。すると、以前と同じように手鏡が光り出した。ミズカはボタンを押す。この世界ではドアが出てきた。

「いってきます」

ミズカは小声でそう言い、ドアを開け中へ進んで行った。


1/20ページ
スキ