21章 バシャーモの森

「だから、ここはバシャーモの森ってんだ。ずいぶん昔の話らしいから本当かどうかはわかんねぇけどな」
「へぇ……」
「つか、よくこんなムズイことおめぇわかったな」
「まあね!」

ミズカはニッと笑った。まさか当たっているとは思っていなかったが、当たって少し誇らしい。

「それで、助けて欲しいって? あなた知ってるんでしょ?」

ここからやっと本題に入った。バシャーモたちを見ていると、この少年には心を許しているように見えた。つまり、先に少年がバシャーモ達に出会っていたということ。そして、少年には助けることができない状況だと読み取れた。

「ミズカ! どこだ~?!」
「崖に落ちてなかったら返事して!」

遠くから、サトシとハルカの声が聞こえた。ミズカは今いる状況を振り返る。バシャーモのことですっかり仲間たちを待たせていることを忘れていた。

「あ! すっかり忘れてた……」

ミズカの言葉を聞くと、少年は呆れた顔でため息をついた。ミズカは4人を連れてくると、改めて事情を話す。それから、少年との自己紹介も済ませた。

「へぇ~。シップウって、借金取りに追われてるんだ……」

シップウが案内をするというので、ミズカ達は後ろをついて行っていた。崖を沿って歩いている。少し距離があるらしく、彼の旅の経緯を聞いているところだった。

「まぁ、慣れたけどな」

慣れたとは、とツッコミを入れようとしたが辞めておいた。さっき、逃げている道中で何度も借金取りと出会し、喧嘩に強くなったことを聞いたからだ。慣れたとは、喧嘩に強くなったことだと想像がついた。

彼は、両親が亡くなり、その両親が残した借金を背負い、借金取りから逃げている。ポケモン世界にもそんなことがあるのかとミズカは悲しくなった。同時に、自分は向こうの世界だから、辛いと思っていたが、そういうわけでもないんだなとも思う。

「あ、着いたぜ」
「ここが……。で? 今にも崖から落ちそうなバシャーモは?」
「あれだよ。おめぇのポケモンでなんとかなんねぇか?」

ミズカが聞くと、シップウは崖の真下を指差した。覗くと、少し崖から横に半径60cmほど、出っ張っているところがあり、そこに辛うじてバシャーモの一匹が立っていた。バシャーモはアチャモが余所見して落ちそうになったところを助けたら、自分が落ちてしまったらしかった。隣で助けられたであろうアチャモも心配そうに見つめている。

どうやら、バシャーモ達がミズカに助けを求めた理由はこれらしい。シップウは空を飛ぶポケモンや、サイコキネシスのようなエスパー系のポケモンを持っていない。だから助けたくても助けられなかった。

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