21章 バシャーモの森

「無理だろう。カスミにも、俺達にも言うのを躊躇っていたんだからな」

タケシの言葉にサトシは顔をしかめる。ミズカの話を聞いていると、虐めについて知っているのは部内の先輩くらいだ。おそらくは、もとの世界でのミズカの友達も知らない。

きっとミズカは心配されないように、何もなかったように、笑顔で過ごしている。誰か気づいてくれれば良いのだが。

元気そうに見えて、本当は不安で一杯なのがよくわかる。前を歩くミズカは少し感情的だ。

――あ~、落ち着けー!

ミズカは必死で感情を抑えようとしていた。忘れたいのに、何故だか、あの手紙の事で頭が一杯になる。

不安が押し寄せてくる。あんな手紙を渡されて怒りもあるが、不安もあった。この先どうなるのだろうか。こんな些細なことで、動揺するとは思わなかった。

そんなメチャクチャな感情で、サトシ達と一緒に歩こうとは思えない。ややもすると当たってしまいそうだった。

「ミズカ! 危ない!」
「え?」

後ろからハルカの叫び声が聞こえた。色んな感情が込み上げて、視界がハッキリとしてなかった。彼女は眼前に崖がある。寸前のところで止まり、尻餅をつく。ミズカは息を呑む。ここに落ちていたら無事ではなかった。

「大丈夫か?」
「まあ……、なんとか」

サトシに聞かれ、ミズカは苦笑しながら答えた。そんな自分が情けなくなり、ため息をつく。ゆっくりと立ち上がる。

「まったく、前みたいに足を怪我したらどうすんのさ!」
「かもかも!」

ハルカとマサトに怒られ、ミズカは言い返せない。ただただ苦笑した。不意にミズカは彼らの後ろに気配を感じた。ミズカの顔色が一気に変わる。

「皆! 後ろ……」
「え?

全員、後ろを振り返る。すると、一匹のバシャーモが今にも攻撃してきそうな表情でいるではないか。

「シャー!!」

バシャーモは勢いよく火炎放射を放った。咄嗟にミズカ達は避けた。

「ピカチュウ、十万ボルト!」
「ピーカーヂュウ!」

サトシがピカチュウに指示を出す。ピカチュウはバシャーモに十万ボルトを放った。バシャーモはそれを躱した。そして狙いをピカチュウに定めると、再び火炎放射を放つ。

「アイアンテールだ!」
「ピッカ!」

ピカチュウはアイアンテールで火炎放射を裂くと、そのままバシャーモにアタックした。これは効いたのかバシャーモはふらつく。

「とどめだ、ピカチュウ! 十万ボルト!」
「ピーカーヂュウ!!」
「シャ!」

その時だった。なんと、バシャーモがもう一匹出てきて、バトルをしていたバシャーモを庇った。ミズカ達は驚く。

「なんで、こんな所にバシャーモが……、二匹も!?」
「ハルカ、二匹じゃないみたい」
「え?」

ミズカの言葉にハルカは聞き返した。

「まだ、木々に隠れてる」

彼女がそう答えた瞬間、何匹ものバシャーモや、ワカシャモ、アチャモが出てきた。ミズカ達は完全に囲まれた。先は崖。逃げ道はない。

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