19章 非公式のポケモンコンテスト

「よく、この状態で一人で歩こうとしたわね……」

ジョーイにミズカを診せると第一声がそれだった。ジョーイの手には39度を表示した体温計が握られている。サトシもマサトもまさか39度まであるとは思っていなかったらしく、心配と驚きが入り混じった表情を浮かべた。

ここは病室。たまたま病室が空いていたので、ジョーイは部屋の二段ベッドより、ふかふかのベッドの方がいいと通してくれた。

「これでは、明日のコンテストは無理ね」

ジョーイは体温計を見つめながら言った。

「待って……下さい……」

頭がガンガンして、寒気もする。だからか目を開けると勝手に涙が出てきた。その涙を止める抵抗は出来ないが、コンテスト出場を止められたことについては抵抗が出来た。

「もし明日……熱が下がったら……、コンテスト出場を……、許してください」

一度決めたら最後までやりたいミズカ。それに、今日一緒に頑張ったキルリアの気持ちを無駄にしたくはなかった。

「駄目よ……。いくら、明日下がったとしても病み上がりよ? やめなさい」

曖昧な返事ではなかった。ハッキリ、やめなさいと言われた。当たり前だ。この状態で出場して良いという医者がどこにいるだろうか。

「出場させてください。出ちゃいけないのは……百も承知です」

ジョーイを潤んだ瞳で見つめる。ジョーイは困った表情を浮かべる。サトシとマサトは予想通りで苦笑しながら、ため息をついた。

「ダメです。わかっているなら……」
「ジョーイさん。ミズカは、サトシみたいに頑固だから聞かないよ」

マサトは口出しする。

「お願いします……」

真剣に言っている。たしかに、一度言ったら聞かなそうだ。このまま言っていてもキリがない。

「わかったわ……。でも、熱が少しでもあったら、出場させません」

とうとう折れた。ミズカは、少し安心したようで辛いながらも自然と笑顔がこぼれた。

「ありがとうございます」
「さぁ、眠りなさい。39度もあるんだから」

ジョーイが、そう言うと、ミズカは素直に頷き眠り始めた。その後、サトシ、マサトはハルカとタケシの待つ部屋に戻った。

「あ~、遅いかも! 夕飯だって言ったのに~……。もうお腹すいたわ。って、ミズカは?」

ハルカは、思いっきり怒るつもりだったのだろう。しかし、ミズカの姿はない。怒るより先に疑問が湧いた。サトシとマサトは、慌てすぎてハルカ達に伝えるのを忘れていたのだ。

「あぁ……、それが風邪ひいたみたいなんだ」
「しかも、39度もあるって」

サトシの言葉にマサトが一言付け加えた。それを聞き、ハルカとタケシは驚いた表情を見せた。

「ミズカって風邪引くの!?」
「お姉ちゃん、ツッコむところ違うよ……」

ハルカが変なところで驚く姿に、マサトがため息をつく。

「ということは、ミズカは病室か……」
「あぁ、今は寝てるよ」

ミズカの姿がないということは病室だろうと想像がつく。サトシの返事にタケシは眉間にシワを寄せた。わざわざ病室ということは、かなり症状が酷そうだ。

「明日のコンテストは?」

ハルカがハッとした表情でサトシに聞く。

「それが……明日、熱が下がったら出さしてもらえるように、ミズカがジョーイさんに頼んだんだ。それで、なんとかOKしてもらえてた」
「本人は、熱があっても出るつもりでいたけどね」

マサトが呆れた表情で言った。ミズカならやりかねない。ハルカとタケシは苦笑した。
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