16章 仲間と夢と

「あ~あ、あんたどうすんの? 水浸しじゃない」

カスミが言うと、皆が笑い始めた。ミズカも笑う。泣いてるのか笑ってるのかよくわからない状況である。

「泣くか笑うかどっちかにしなさいよ!」

そう言いながら、カスミはハンカチを渡した。

「ありがとう……」

ミズカは、ハンカチを手に取る。

「ミズカって意外に泣き虫かも!」
「お姉ちゃんに言われたくないと思うよ?」

クスクス笑うハルカにマサトが突っ込む。マサトの言葉に、皆その通りだと思って笑い始めた。

「ちょっと、なんで笑うの!?」

ハルカは少し怒り気味に言うが、自分でもそう思ってるらしく、目が笑っている。

「さて……、もう帰らないと……」

ミズカは立ち上がる。笑ったら涙が止まった。まだここにいて皆と話していたい。そんな気持ちが過ぎるが、いつまでも向こうの世界でのトイレに籠もっているわけにはいかない。

「カスミ、ハンカチありがとう」

ミズカはそう言って、カスミにハンカチを返した。

「もう大丈夫なの?」

カスミは心配そうに、ミズカを見る。

「もう大丈夫。カスミ、色々とありがとね! 皆もありがとう! またいつくるかわからないけど、来たときには宜しくね」

少し寂しそうなミズカは、本当に自分が次にいつ来られるかわからない様子だった。エーフィは不安な表情で彼女を見上げる。

「エーフィも。また来たときは、一緒に旅してくれる?」
「フィ」

もちろん、とエーフィは頷く。ミズカは嬉しそうに口角を上げた。そして、モンスターボールに戻す。

大丈夫そうだな、とサトシ達は安心した。 ミズカはもう一度、ドアを出すと、ドアの向こうへ少し進んだ。しかし、途中で、足は止まる。

「そうそう、カスミ」
「何よ?」
「思いを伝えるのは今日みたいな日がいいよね!」

ニヤッとしながら、そう言って手を振り、元の世界に帰って行った。今まで、ミズカからはこういう恋愛に関してのからかいはなかった。そのため、カスミは思ってもみなかったことだろう。顔がどんどん赤くなる。

そういう面でも、ミズカは少し成長したのかもしれない。思いを伝える……。何のことかはすぐにわかった。サトシである。

ミズカは、カスミがサトシを好きな事を知っている。それでわざと言ったのだろう。カスミは、ミズカに怒ろうとするがそこにはもうドアはなく、ミズカの姿もなかった。完全に言い逃げされた。
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