16章 仲間と夢と

「まさか、ミズカが本当に来ると思わなかったかも!」

ハルカは驚きを隠せないでいた。ミズカが最後に来た日から、もう何日も経っている。

「ハルカ……、それは驚き過ぎ! あたしだって、約束はちゃんと守るんだから!」

ミズカは腕を組んで言った。カスミは横で苦笑している。しかし、前に比べて、だいぶしっかりとした表情のミズカ。もとの世界で何があったのかは知らないが、精神的に鍛えられたようだった。

そして、カスミは思う。無理矢理に来たとしたら、時間は大丈夫なのだろうかと。

「カスミ? 散歩行かない?」

ミズカはカスミを誘う。また、自分に相談でもするのだろうか。カスミはそう思いながら、頷いた。二人は夜のミラージュ王国を散歩しに行った。

夜風が心地よい。ちょうど噴水があるところに出て、二人はそこのベンチに腰を掛けた。

「カスミ、辛くない?」
「え……」

思いがけないミズカの一言にカスミは驚いた。まさか、そんな事を聞かれるとは思っておらず、言葉に詰まる。

確かに、辛い。今まで、出会ってからずっと一緒だったトゲチックが手元を離れてしまった。だからか、ミズカが忙しくても会いたかったし、会いに来てくれて本当に嬉しいと思っている。

「あたしも、ピチューと別れた時、同じだったんだ。すごく、辛かった。別れがあるなんて思ってなかったから……」

ミズカは空を見上げる。空は満点の星、見ていて飽きない程の数である。ピチューとの別れは、カスミもよく覚えている。ミズカがピチューの自由を望んだ日。自分の腕の中で声を上げて泣いていたミズカを思い出す。

「あんたの言う通りよ……」

カスミは素直に答えた。辛い。明日から、トゲチックがいないなんて、そんなこと考えたくない。

「カスミ?」
「何よ」
「泣きたいときは泣いたほうがいいよ」

ミズカの言いたい事はそれだった。カスミは気が強い。そのため、あまり涙を流さず、トゲチックと別れた。それが気がかりだった。だから、ミズカはカスミを散歩に誘ったのである。

「だから、誘ったわけね」

カスミは柔らかい口調で言った。

「だってさ、泣きたいときは泣いた方がいいでしょ?」

顔を覗くミズカに、カスミの瞳には堪えていた涙が一つ、また一つと流れ始めた。本当は泣きたかったのだ。辛くて辛くてどうしようもなかった。カスミは溜め込んでいたものを一気に出すような勢いで泣いていた。
 
――まさか、泣かされるとはね……。

そう思うが、誰かにそう言って欲しかったは言うまでもない。ただ、ミズカから言われると思っていなかったのだ。ミズカはピチューと別れた日にカスミがやってくれたように、今度は自分がカスミを抱きしめた。

やがてカスミの涙を少しずつ止まった。泣き終わって、少しスッキリした。モヤモヤが晴れた。泣いたことで、自分の気持ちに整理がついた。大丈夫。明日からはまたジムの仕事ができる。

「だいぶ、スッキリしたみたいだね」

ミズカは満足そうに言う。
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