13章 さようなら。また会う日まで!

ポケモンライドの大会後、結果報告と挨拶で練習場を貸してくれた牧場に訪れた。そこで受付の人が教えてくれたのは、黒髪のカチューシャをした女の子が自分を探していたということだった。

黒髪の女の子でカチューシャで……。シゲルの知っている限り、知り合いには一人しかいない。

色眼鏡で見ようとしていた自分をいとも簡単に崩していくミズカが、シゲルには眩しく見えた。会えて安心したなんて。彼女が自分のしたことを置いて笑顔で接してくれることに喜びを感じているなんて。ミズカは夢にも思っていないだろう。

彼女の不安げな瞳を見つめる。事情を知るエーフィもまた心配した表情だった。

――何していたんだ、僕は。

何も罪もない彼女を傷つけている。シゲルの脳裏には、昔の光景が広がっていた。

「あぁ、すまないね。実は僕が八歳の時、君と同じ名前の3歳くらいの女の子と会ったことがあるんだ。そのときはサトシもいたよ。だから、君の名前を聞いて思わず昔を思い出していたんだ。君に顔をしかめたわけじゃない」
「へぇ~! あたしと同じ名前なんて……珍しい!」

ミズカは笑顔に戻った。少しは安心してくれただろうかと、シゲルは考える。

「その子どんな子?」
「ちゃんと覚えてはないが……、父親といたよ」
「ふーん、そうなんだ」

そうなんだ。そのセリフから、シゲルはミズカが思い出していないことを悟る。いや、思い出すことが難しいことはわかっている。彼女はあのときの記憶がないはずだ。

そんなミズカは、最近見た夢を思い出していた。二人の男の子と遊んだ夢。そこには父親もいた。偶然にも似ている夢を自分は見ている。

シゲルに話したら、何か反応はあるのだろうか。もし夢のことと、今のシゲルの話が一致していたら……。そう思い、ミズカは口を開く。

「あたしさ。なんか変な夢見たんだよね……、最近……」
「え……?」
「あたしが幼くて森で男の子二人と遊んでるの。お父さんもいた。たしか、キャップを被った子と紫の服の子がいたんだよ。その夢は、妙にリアルで、小さい頃に本当にあったことのような感じだったの! なんか、シゲルが今話したことと似てるね!」
「そ、そうだね……」

シゲルは今の言葉にビックリしていたが、悟られまいと、相槌を打つ。ミズカはあまり反応のないシゲルに、やっぱりただの夢であったかと思う。

だったら、その同じ名前のミズカという人物はどんな子なのだろう。シゲルをあんな表情にさせた女の子……。その子にも会えるだろうか。

「いつかその子と会えたらいいな!」

ミズカは空を見上げた。

「会えるんじゃないかな……」
「そう? そうだといいな!」

ミズカは軽く伸びをする。なんだか、身も心もスッキリだ。ミズカの心の中のモヤモヤも晴れていた。そして、受け止める。自分のシゲルに対する気持ちを。
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