12章 エーフィvsピカチュウ

「よく気づいたね……。あたしの説明で……」
「よくわかる説明だったぜ?」
  
ミズカは苦笑する。よくわかる説明だったとしたら、きっと自分の説明じゃなくても、サトシは気づいていただろう。

「ミズカはなんで知ってたんだよ?」
「もとの世界でよく少女漫画を読んでるからかな」

サキコのせいなのか、おかげなのか、恋愛漫画がとても面白いと思うようになった。最近は少女漫画雑誌も買い始めている。

サトシは少し不思議になる。説明ができるということは、つまりは好きな人がいるからできることなのではないかと。自分と似ていると言われるミズカは、感覚人間。そんな彼女が知らない感情を説明できるだろうか。

「ミズカは本当にいないのか?」
「何が?」
「好きな人だよ」

サトシに意外な興味を持たれ、ミズカは目をパチクリさせた。カスミやタケシとこんな話になっても、サトシとは絶対にないだろうと思っていた。

「いない。まったくと言ったら嘘になるけど」
「え? じゃあ、いるのか?」
「好きにはなってない! 気になるだけ!」

ミズカは洗った皿を持っているタオルで拭きながら言った。サトシはきっと深掘りしてこないだろうとミズカは思った。だから、正直に答える。

「カスミには言わないのか?」
「その人のこと、自分がちゃんとどう思ってるのかわかったら言う」

カスミに言うと、厄介なことになりそうだとミズカは思っていた。気になる、という言葉で、はいそうですかと納得してくれないだろう。

サキコと同じように、恋だと言い張るに決まっている。そのときには、ミズカは自分の気持ちを認めなければいけなくなる。誰も彼もに言われたら、きっとそれだと受け止めなければならない。それが怖い。

「そっか……。じゃあ、俺戻るよ!」

サトシがむくりと起き上がった。どうやら戻ろうとしているらしい。

「まだ戻らないほうが良いよ?」
「なんで?」
「今、行けばカスミにまた聞かれるよ。好きな子いるのって……」
「なんで聞かれるんだ?」
「それは……」

サトシのごもっともな質問に、ミズカは言葉を詰まらせた。カスミはハッキリとは言ってくれなかったが、サトシが好きだ。でもきっと、どうしようとは思っていない。サトシもきっとそうだ。
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