12章 エーフィvsピカチュウ

「なんで転けるんだよ!」
「普通、そこまでわかってれば、気持ちもわかるはずだぞ。とくにサトシは……」

タケシが呆れた顔で言う。タケシも気づいている様子だが、ミズカもサトシはカスミを無意識で好きなのではないかと思っている。というのも、自分とは明らかに態度が違う。

学校でよくあるパターンを目の当たりにしているのだ。好きな女の子におちょくったり、ちょっかいを出したりする。サトシのやっていることは、まるでそれだった。

「そんな事言われたってしょうがないだろ!」
「まあ、確かにね……」

怒るサトシにミズカは苦笑した。タケシとカスミは呆れ返っている。仕方なく、ミズカはサトシに説明をし出した。

「なんていうか……、その人を見たらドキドキしたり、ずっと一緒にいたいなっていう気持ちになったりするんじゃないかな? 後はよく知らないけど」

ミズカの説明にカスミは首を傾げた。そこまでわかっていて、なぜミズカはシゲルへの気持ちに気づかないのだろうかと。こないだ意地でも会いに行こうとしたミズカを思い出す。

ミズカはもう記憶にないのだろうか。あるいは……。ミズカはもしかしたら、シゲルに良い印象を持たれていたいことを思って戸惑っているのだろうか。いずれにしても、流石に掘り返すこともできず、黙った。

一方、サトシはミズカの説明に、

「へぇー。そうなんだ……」

と、平静を装っていた。実は、表には出さないがカスミを見るとドキドキすることがある。同じ女の子のミズカと一緒に旅をしてから、カスミに対する自分の行動にも違和感を覚えていた。ミズカに普通に接せられることを、カスミにはできない。

すぐにからかってしまうし、煽ってしまうし、それでカスミとは喧嘩になる。けれど、それでいて一緒にいたいとは思っていた。時々、彼女の笑顔が眩しくてドキッとすることだってある。そんなことがなければ、勿論ウルトラ鈍感のサトシが気づくわけがない。

サトシがそんな事をボーっと考えていると、

「サトシ?」

カスミの顔が目の前にあった。サトシは少し赤らめる。

「な、なんだよ!」
「なーに、あんたボーッとしてんのよ! まさか、そういう子がいるわけ?」
「い、いるわけないだろ!」
「ふーん」

カスミは怪しい目でサトシを見た。カスミだって気が気でない。もし好きな人がいたら……。そんなことを思って焦っていた。が、サトシから答えは得られなかった。
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