11章 ポケモンダンス団と別れ道

次の朝……、トラックの前に、ミズカ達は立っていた。いよいよ、ピチューとの別れの時である。ミズカは、ここまで泣くのを必死で堪えていた。  

昨日、カスミには「嫌だったら、そう言えばいいのに」と言われた。しかし、ミズカにはそれができなかった。嫌と言えば、ピチューは我慢して入団しないと言うだろう。ミズカはピチューのやりたいことを妨げたくはない。

「ピチュー。ちゃんとエリコさんやアイミの言うこと聞いてね」
「ピチュ!」
「やるからには、絶対投げ出さない!」
「ピチュ!」

ピチューはうんうんと大きく頷く。

「それと……」

思いついた言葉に詰まる。こんなことを言っていいのか。ミズカは少し迷った。ピチューが首を傾げている。でも、だけど、少しは自分ことを思い出してほしい。

「あたしのこと、忘れないでね」

寂しそうに顔を歪めるミズカを見て、やっとピチューはミズカの気持ちがわかった。あんなにあっさりと許してもらえたということは、自分のことはどうでもいいのかもしれないとピチューは思っていた。

自分はエーフィのように素早くない。チコリータのように大技を放てない。スピードも遅く、それ以上速くならないと宣告された。

だから、ミズカにとっては自分は重荷なのではないかと少し思っていた。それが、そうではなかった。本当はミズカは、自分と別れたくなかったのだ。ミズカの泣きそうな顔でわかる。ずっと堪えていてくれた。自分のために。自分がやりたいことをできるように。

「ピチュー!!」

ピチューはミズカに抱きついた。忘れるわけがない。

ミズカがりんごを取ろうと手を伸ばしていたあの日、ピチューはこの人と一緒にいたいと思った。ロケット団とは無縁の純粋な女の子。笑顔が素敵で、どこまでも真っ直ぐで、それがピチューには居心地良かった。この人にゲットされたい。そう思った。

そして、ゲットされて良かったと今思う。

「ピチュー、頑張ってね。応援してる!」
「ピチュ!」

ピチューは、最後にミズカにギュッとしてから離れた。ミズカは口角を上げる。

「ピチューを、よろしくお願いします!」

お辞儀するミズカに、エリコとアイミは頷いた。

「それじゃ、ピチュー。トラックに乗って!」
「ピチュー!」

ピチューはアイミに抱かれトラックに乗った。エリコの運転席に座る。ピチューは窓から顔を出した。トラックがゆっくり動き出す。しかしミズカにはそれが速く感じられた。

そして、窓から顔を出したピチューに思いっきり手を振る。

――さよなら……ピチュー……。次、会ったときはまた一緒に旅をしたいな。

ミズカはトラックが見えなくなるまで手を振っていた。見えなくなると、ミズカは堪えていた涙をボロボロと流しながら、カスミを見た。

カスミはトゲピーをタケシに預けると、包み込むようにミズカを抱きしめる。トゲピーもなんとなくピチューに会えないことを察したのか寂しそうにしている。無論、それはピカチュウもだ。ピカチュウはトラックの進んだ方向をいつまでも眺めている。

「まったく、あんたって子は……」

カスミの言葉にミズカは声を上げて泣いた。本当は別れたくない思いが溢れ出し、いつまでも泣き続けた。
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