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ほか


薄手のカーテン越しに射し込む光が、部屋を微かに照らしている。
それは、もう見ることのできない光景だったけれど、目覚めるたびに、かつての景色が思い出された。

見えないことに気づくのはもう慣れているはずなのに、目覚めの瞬間はいつだってほんの少し戸惑ってしまう。
自分が今どこにいるのか、ここに誰がいるのか、手のひらを布団の上でぱたぱたとさまよわせた。

「…ぃ、ぶき」

声にならないほど小さく名前を呼んだときにはもう泣きそうだった。
あいつの気配がないことが、こんなにも怖いなんて。

すぐに足音がぱたぱたと響いて、駆け寄ってくる気配がした。
柔らかな声がふわりと耳をくすぐる。

「ごめんねぇ、志摩ちゃん。ここにいるから大丈夫だよ」

声だけではまだ怖くて、無意識に手が伸びる。
闇の中、ひとり取り残されたみたいに胸の奥がざわざわして、ひとりでは居場所がわからない。

伊吹はおれの手をとって、その手のひらを自分の頬へと導いてくれた。
その感触を確かめるように、指先で頬の形をなぞり、輪郭を撫で、眉の上、鼻筋、目元、口元。
触れるたびに、確かにそこにいるとわかる。
それだけで、胸の奥に沁みこんでいた恐怖が、少しずつ溶けていった。

志摩の手が俺の顔を触っている間、俺はじっと黙って志摩の好きなようにさせていた。
どんなに時間がかかっても、全部受け止めたいと思っているから。
ようやく志摩の動きが止まったとき、その顔は不安ではなく安堵を浮かべていた。

「んふふ、俺だったでしょ?」
「ん、いぶきだった」

その言葉に微笑み、そっと口づけを落とす。
それは性的なものではなく習慣みたいなものだった。
俺がここにいて、その隣に志摩がいる。
そんな当たり前を確かにするためのおまじない。

「ごはん食べよ」

伊吹が指と指を絡めて引き寄せてくれるから、答えるようにその手をぎゅうと握り返す。
ふたりでゆっくりと歩いてリビングへ向かうとおいしい匂いが鼻をくすぐった。

目が見えなくなって、もう未来に光はないと暗闇に飲み込まれそうになった。
けれど、伊吹が掬い上げてくれた。
そうして迎える朝は、いつだって優しくて、確かに明るかった。
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