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ほか


部屋のドアを開けると、ふかふかのクッションの上に、小さなポメラニアンが丸くなっていた。
ふわふわの白い毛並みにくりくりの瞳。
小さな耳がぴんと立って、俺の気配にぴくんと動く。

「またなっちゃったんだね、志摩ちゃん」

そっと近づいて頭を撫でれば、小さく鳴いて尻尾を振った。
犬になっても相変わらずきゅるきゅるしてる。

「どこでなったのかなぁ」

ふわふわの体を両手ですくい上げると、胸元に顔をうずめてくる。
ソファーもとに散らばった服を見るに、ここで犬になったらしい。

「おうちまで我慢してえらいねぇ」

この世界には一定数ストレスが溜まるとポメラニアンになる体質の人がいるらしく、志摩はまさしくそれだった。
通常、意思とは関係なく突然変わってしまうらしいが、志摩は多少のコントロールができるようで外でうっかりなんてことはないと言っていた。

「お風呂入ろっか。ふわふわにしてあげる」

そう言って、抱えたままバスルームへ。
湯を張った洗面器にそっとポメ志摩ちゃんを浸せば、リラックスしている様子。

「気持ちいい?」

返事をするように、ぴこぴこと尻尾が動く。
ほんの少しだけ濡れた鼻先が指をつん、とつついてきてあまりの可愛さに笑った。

「可愛いねぇ、志摩ちゃん」

泡で優しく洗ってしっかりすすいだあと、ふかふかのタオルでくるんで、ドライヤーで乾かす。
温風に毛並みが揺れるたび、目がとろんとして、今にも寝てしまいそうだった。

「…今日はポメ志摩ちゃんのまま寝る?」

小さな体が甘えるように擦り寄ってくる。
耳の後ろを優しく撫でて、何度もすきの感情とお疲れ様の労りをささやくように声をかけた。

そうしていると突然腕の中のふわふわが消えた。
代わりにそこにいたのは、人間姿の志摩。
ぼんやりとした顔で、変わらず俺の胸元に頬を預けたままでいる。

「志摩ちゃん、おかえり」

笑ってふわふわの髪にそっと唇を落とした。
特に反抗もせず大人しくしている志摩は、耳までほんのり赤い。

「お疲れ様、いっぱい頑張ったねぇ」

ストレスも不安も、この腕の中ならもう大丈夫だ。
それに、犬の反動でいまなら少し甘えられる。

「いぶき、なでて」

茶化すこともなく頭の上に温かな手のひらが降りてきた。
頭の芯がふわりと溶けていくような心地がした。

「ふふ、志摩ちゃん気持ちよさそう」

耳元に落ちる低落ち着いた声と、まるで壊れものを扱うような動き。
ただ触れられるだけなのに、自分を肯定してくれるようで。
次第に意識は霞み目を閉じれば、伊吹の手のひらの感触だけがおれの世界のすべてになった。
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