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with横山


夢中になっていると時間が進むのは早かった。
そのまま横山さんの家で出前太郎を利用させてもらい一緒に夜ご飯を食べた。
作品を読ませてくれたお礼として奢ったら、横山さんはかなりテンションがあがっていて、なんだか既視感があった。

「ありがとう!横山ちゃん!楽しかったー」
「お邪魔しました」
「また来ていいよ。いっぱい描いとくからまた奢ってね、今度は寿司がいい」
「はいはいわかったよ」

たった1日でずいぶん距離が縮まったと思う。
図々しいのに憎めない横山さんに苦笑いしながら別れを告げた。
伊吹と二人の帰り道は、もう夜だというのにまだ明るさが残っていて、夏がきているのを感じる。

隣を歩く伊吹はずっと上機嫌だった。
目を輝かせながら、あのシーンがよかった、ここの台詞が最高だったと、まるで子どものように夢中で話している。

「あのさ、ほら、走って追いかけて“離れたくない”ってやるの、あれめっちゃよくない?」

興味なさげに相槌を打てば、不満気に文句を言うから笑いそうになる。
ぷんすこと膨れる伊吹を横目に、小さく肩を揺らして笑った。

「んじゃ、またねー志摩ちゃん」

そんな他愛のないやり取りをしていたらいつの間にか別れ道。
俺は左へ、志摩は右へ帰るのだ。
手をひらひら振って、歩き出そうとしたその途端にパーカーのフードを引かれた。

「ぐぇっ」

情けない声を漏らして振り返れば、そこには志摩がいた。
俯いていてふわふわの頭しか見えないので、そっと顔を覗き込む。

「志摩ちゃんどうしたの?」
「…いぶき、離れたくない」

その瞬間、思考が固まる。
胸を鷲掴みされたように鼓動が早くなるのがわかった。
声も出せずにただぽかんとしている俺を静観してから、志摩はふっと笑った。

「こーいうのが好きなんだろ、おまえ」

いたずらを成功させた子どもみたいに、得意げな顔。
舌をぺろりと出した表情はムカつくどころか誰にも見せたくないほど可愛いのだからずるい。

「なっ…!もてあそんだな!ひどい!俺の純粋なときめきを返せよ志摩ちゃん!」

どれだけ抗議をしても志摩は笑うばかりで取り合ってはくれない。
それどころか俺を置いてさっさと帰ってしまった。

「こっちは本気なのになぁ…」

俺はしばらくその場に突っ立って、ため息を吐くしかなかった。
だから、この日は自分の感情にいっぱいで、志摩の耳が朱に染まっていることに気づけなかった。
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