R風味
急な土砂降りにあい、たまたまあったラブホテルの前で立ち尽くしていた。
派手なネオンの看板がサングラス越しでも眩しく目に刺さる。
「…入っちゃう?」
冗談まじりに少し笑って言うと、志摩は意外にも頷いた。
ドアをくぐると、対面ではない無人パネルの受付。
部屋の写真が並び、ベッドの広さや雰囲気を選べる仕様につい迷ってしまう。
「この部屋めっちゃピンク」
「絶対嫌」
「SM部屋は?」
「…帰る」
「うそうそ、ほら普通っぽい部屋あった」
結局、普通のホテルと変わらなさそうな無難に見える部屋を選んだ。
エレベーターで上がり、部屋のドアを開けると
すぐに甘ったるい香りと大きなベッド。
コンドームやローションもベッドサイドに揃っていた。
「すげぇ〜見て見て志摩ちゃん」
「…すご」
志摩ちゃんも非日常の空間にどこか興奮しているように見えた。
雨で濡れた服を脱ぎ浴室に入ると、シャワールームも広くジャグジーバスが備え付けられている。
「志摩、一緒に入ろ」
ふたりで泡風呂に浸かりながら何度もキスを交わし、小さく笑い合う。
そんな戯れ合いみたいな時間も愛おしい。
だけど、風呂から上がり置いてあるふかふかのバスローブを羽織った志摩の姿にたまらなくなった。
「志摩、これエロい」
「ばーか…」
伊吹はすぐにおれをベッドに押し倒し、甘い口付けを落としてくる。
ベッドに横になった瞬間、天井に大きな鏡があることに気づき、そこには薄暗い照明に照らされて重なり合う姿が映っていた。
「…ぁ、鏡、ゃだ」
「んふ、えっちでかわいいねぇ」
意識すると余計に恥ずかしくて蒸発しそうになった。
伊吹はそんなおれを小さく笑いながら、ローションを取り出して準備を進めていく。
その間もずっと、伊吹の指を飲み込んでいく様子も全部、鏡に反映されていた。
「かわいい、志摩ちゃん鏡見ると中がきゅんってなる」
「ゃ…いぅ、ぁ…っ」
「きもちい?」
触れられてキスを重ねる度に鏡越しに映る自分がいやらしくて、いたたまれない。
顔を背けようとしたのに、頬を指先で撫でられて叶わなかった。
「ぃうき…っ、もう、挿れて」
耐えられなくなった震える声に、伊吹は優しく微笑んでくれた。
ゆっくりと奥へと繋がる感覚とともに、鏡の中のふたりも同じように溶けていく。
「ん…ぁっ……ッ」
「志摩ちゃん、鏡」
「ッあ、ゃ、みなぁっ…ゃぁ、、ゃ」
鏡の中のふたりが動くたび、目を逸らしたくなる。
情け無く唇が開いて、喘ぎが漏れ、足が震えるだらしのない姿。
そのすべてが、自分の意思と関係なく映し出される。
「ほら、全部映ってるよ」
伊吹の手が腰を支え、脚を開く角度をわずかに変える。
鏡の中に、その奥まで繋がっている様子までもが鮮明に露わになった。
「かぁいいね、俺のこと受け入れてくれてるの」
恥ずかしくて気持ちよくて涙が溢れた。
それから伊吹は行為にはそぐわない屈託のない笑顔で砂糖みたいな声を降り注ぐ。
「しーま、だいすき」
天井に映るふたりの姿からもう逃れられなかった。
そこにいるのは、伊吹に愛されて、貫かれて、求められて、泣いてしまうほど満たされている自分自身。
それは雨なんて忘れてしまうほどに濃厚な時間だった。
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