ノーマル
休みの日だというのに、朝からどうも身体が重い。
熱もないし頭も痛くないのに、ただなんとなく起き上がる気力が湧かない。
ダルい、って言葉がちょうどいい。
布団から出るのが億劫で、ずっと寝返りを打っていたら、案の定先に起きていた伊吹が覗き込んできた。
「志摩ちゃん?」
ぼんやりしてた頭に、にこにこした顔が映る。
なんでこんなにいつも楽しそうに笑えるんだろうって、ちょっと不思議だった。
「ごめん、ダルくて」
「熱?」
「ちがう」
伊吹の掌が、おれの額に触れる。
少しだけ冷たい手が気持ちよくて、つい目を閉じた。
「うん、いつもの体温だ」
「なんでわかんだよ」
「わかるよ、志摩ちゃんのことだもん。なんか食べれる?」
「…むり」
「じゃ、俺も横になろ〜」
当然のように布団の中に入ってきて、おれの隣に寝転がる。
どうしてこんなにも安心するんだろう。
でも、それと同時に情けなさも押し寄せる。
せっかくの休みなのに、どこも行けない。
何もできない。
伊吹はおれと過ごすのを楽しみにしてくれていたはずなのに。
「…ごめん」
「ん?なんで謝んの?」
「だって、なにもできない。せっかく一緒にいれるのに」
気づけば、情けなくて目尻が熱くなる。
身体もだるいけど、それよりも心のほうが重たい。
こんなときに、素直に甘えられない自分も嫌になる。
でも、伊吹は笑ってた。
いつもと変わらない、優しい、あったかい笑い方。
「なーに言ってんの。何もしないで隣で寝れんのは恋人の特権だろ」
ふわっと腕を回されて、引き寄せられる。
耳元で、少し低くなった声。
「なーんもできなくても、隣にいんの嬉しいんだけど。志摩と一緒に寝っ転がってんの、好きだし」
言葉のひとつひとつが、身体に染み込んでくる。
息を吸うのもちょっと苦しかったのに、伊吹の声を聞いた途端、すーっと楽になった。
「志摩が俺の隣いんの、それだけで幸せ」
「…ありがと」
ぼそっと呟くと、髪をくしゃっと撫でてくれる。
目が合うとニカっと笑われた。
「じゃあお礼に、ほっぺた触らせて?」
「ふは、なんだそれ」
「志摩のほっぺ、やわらかくて好き」
「…へんなの」
そう言いながらも、悪い気はしない。
むしろ、今は伊吹のそういう子どもみたいな甘え方に救われてる。
しばらくそのままぼんやりして、伊吹の体温に包まれてた。
何もしてない。どこにも行ってない。
それなのにとても満たされた時間だった。
