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ノーマル


夏の夜はまだ完全に暗くなりきらず、メロンパン号と違って狭い車内はエアコンが効いている。
内線もなく、しばしの穏やかな巡回。
助手席の相棒は、窓の外をぼんやり眺めていた。

「おまえさ、ひまわりみたいだよな」

不意に志摩が口を開いて出たのは、夜の静けさに溶けるくらい柔らかな音だった。
いつも話しているのは大抵俺のほうなのに珍しい。
丁度信号が赤になったので、ハンドルに手を置いたまま隣に顔を向ける。

「なんで?」
「別に、なんとなく」
「志摩ちゃんは理由のない話しないでしょ」

俺の問いかけに、ちょっとだけ困ったような表情をする。
それから、どこか言葉を探すみたいに視線を少しだけ泳がせた。

「…誰にだって分け隔てなく優しくするし。いつも明るいし、なんか、側にいるとあったかい」

ひとつひとつ、ためらいながら紡がれる言葉に、俺のほうがぽかぽかする。
志摩の声は静かなのに、どこか甘やかに響いて耳に残る。

「んふ、ありがとう」
「なに笑ってんだ」
「んー?嬉しいなあって」

素直に言うと、志摩はまた目線を逸らした。
信号が青に変わる。
車をゆっくりと進ませながら、俺は口を開いた。

「俺、ずっと志摩のこと見てるよ」
「…何の話だ?おれの話聞いてたか?」

ちらりと助手席を見れば、怪訝な顔をしてるのが目に入った。可愛い。
少し照れているのがわかって、もっと言いたくなる。

「聞いてたよ、俺がひまわりだって話でしょ?」
「そこからどうしたら、お前がおれを見てる話になんだ」
「ひまわりって太陽のほうしか向かないんだって」
「…だから?」
「俺は志摩のほうしか向かないの。ずっと、志摩のことだけ見てんの」

照れも隠さずにまっすぐそう言った。
ただの相棒にしては、ちょっと甘すぎるかなって思ったけど嘘じゃないから。
俺にとっては本当に志摩がそういう存在だから。

「だから、志摩は俺の太陽だね」
「おまえなぁ、ほんっと…」

わざと軽い調子で言ってやると、志摩は耐えきれずに片手で顔を覆った。
自分で言い出したくせに、逆にやられているのがきゅるっきゅる。

「…運転中だろ、前見ろ」
「見てるよー?でも志摩のこともちゃんと見てる」

夏とはいえ、もう時期空は暗くなるだろう。
でも、暗くなるのは空だけだ。
俺の世界は、隣に太陽がいてくれる限り暗闇になんて沈まない。
どんなに暗くなっても、俺には志摩がいれば平気だと確信していた。
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