ノーマル
休日の昼下がり。
ピンポーンと顔を覗かせたのは昨日も飽きるほどみた顔。
ついでにいうと、明日からまた24時間顔を合わせる相棒。
「はいっ志摩!一緒にお昼食べよ~!」
「…なんでそんな元気なんだよ、お前」
伊吹が、手作りの弁当箱をふたつ持って現れた。
一つは自分用でもう一つはおれ用。
「また作ってきたのか」
「志摩ってごはん適当じゃん?もお藍ちゃん心配でさ~」
そんなことを言って家に押しかけてくるようになったのはいつからだろう。
そして、そんな伊吹を自分のテリトリーについ入れてしまうようになったのはいつからだろう。
「余計なお世話だ」
「はいはい。でももう来ちゃったから!栄養も愛情もたっぷりの藍ちゃん弁当!」
「…後半いらねぇだろ」
ため息混じりに包みをほどくと、中身は相変わらずバランスよく、ちゃんとおれの好みに寄せてある。
「…お前、ほんとよく覚えてんな」
「好きな人の好みくらい覚えるでしょ~?」
「おい」
「冗談だって~。まあ、半分は本気だけど?」
きっと深くは考えていないであろう伊吹は、自分の弁当を開けながらニコニコしてる。
まったく悪びれないその笑顔が、いちばんタチが悪い。
「…いただきます」
口に運べば、当然ながらうまい。
少しくらい茶化して文句の一つでも言ってやりたいが何一つ思い浮かばない。
「…うまい」
「でしょ〜お嫁にどお?」
「結構です」
「結構すんなよ」
じっと見られながら食べるのは居心地悪いが、食べ物に罪はないのでどんどん食べ進めていく。
ふいに伊吹が箸を置いて言葉をこぼした。
「こうやって志摩とご飯食べてるのめっちゃ幸せ〜」
「…お前の幸せは簡単だな」
「えぇ〜でもさあ志摩って休日に会わないとか言ってたじゃん?それなのに俺のこと家に入れて、その上作ったものを黙々と食べてさ、しかもうまいって褒めてくれるし!超幸せじゃん!」
どこまでも真っ直ぐで、必死に隠し続けている恋心がどんどん溢れそうになる。
そんなおれの気持ちなど露知らず、伊吹はにかっと笑って、おれの前に自分の卵焼きを差し出してきた。
「はい、あーん」
「…誰がするか」
「じゃあ逆に俺にする?」
「…しねぇって言ってんだろ」
そう言いながらもおれは、その手から卵焼きを直接自分の口に入れた。
伊吹はちょっとびっくりした顔をして、それからすぐ、柄にもなく頬を赤らめている。
「シマチャンそれ、今の、ちょっと反則」
パニックになってる伊吹につい笑ってしまう。
なにも進展しない、ただの休日。
初々しいにも程があるほど些細な触れ合い。
なのに、どうしようもなくあたたかくて心地よかった。
