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ノーマル


目が覚めたとき、隣に志摩がいる。
それだけで、なんだか今日はいい一日になる気がした。

「志摩、朝だよ」

小さく囁くと、ぐずるようにおれの胸に頬を押し当てる。
まるで子どもみたいに、甘えるその仕草に朝からきゅるが止まらない。

「ふふ、まだ眠いの?」

尋ねると今度は縦に首が動く。
それからゆっくりと視線が交わるが、その瞳は眠気のせいでとろんとしている。

「じゃあちょっと走ってくるから、もうちょっと寝てていーよ」

布団を抜け出そうとすれば、引っ張られてベッドに腰をつく。
見れば、俺の服の裾を志摩のおててが握りしめていた。

「んふ、甘えんぼなの珍しいねぇ」
「…誕生日だもん」

少し拗ねたように唇を噛んでからぽつりと言った。
あまりにも可愛すぎて、呼吸が詰まる。
今まで俺がだもんと言う度に冷ややかな視線を向けてきたのに。
俺の口癖が自然に移ったのかもしれないと思ったら、もうどうにかなりそうだった。

「志摩ちゃん、今なんて言ったの」
「やだ」
「じゃあ走ってこよー」
「…いじわる」

布団に顔を半分埋めたまま、小さな声で文句を言う志摩。
何を言われてもただ可愛くて。
いつもは肝心なところで自分の気持ちを押し殺してしまうのに、今日は誕生日の魔法がかかっているらしい。

「じゃあ今日は、お誕生日の志摩ちゃん王様ね?家来の藍ちゃんがなんでもしちゃう」
「…やだ」
「嫌なの?」
「ん、こいびとがいい」
「ん"ん、そうだねぇ、恋人だもんねぇ」

肯定した途端、志摩の耳がほんのり色づいて口元をちょっとだけ緩める。
俺はたまらなくなって、一回だけキスをした。

「いぶき」
「なぁに、志摩ちゃん。二度寝する?」
「やだ」
「んふふ、やだやだ魔人なの?お誕生日だもんねぇ」

甘く囁いて頭をくしゃくしゃ撫でると、さらにぐいぐい俺にくっついてくる。
あまりにも幸せな時間に、俺のほうがプレゼントを貰っている気分。

「ねむい、けど、いっしょにいるのにもったいない…」
「志摩ちゃん、朝から可愛いが過ぎない?なんで?誕生日だから?いつも可愛いのに藍ちゃん心臓もたないよ?」
「んふふ、ばぁか」

怒るとか呆れるとかそんな響きではなくて、甘くてやわらかくて、耳の奥に優しく残る音。
思わずにやけてしまう。

「30分したらおきる…おきたら、おまえのつくったごはんたべたい」
「どっかいいレストランとかじゃなくていいの?お誕生日だよ?」
「誕生日だからだろ、おまえのがいい…めいわく?」

まぶたの重そうな志摩の声は、かすれ気味なのに甘やかに響く。
俺はニ回目のキスを落とした。
触れたのか触れていないのか、わからないほどのやわらかいキスだった。

「迷惑なわけないでしょ」

耳元で囁くように返すと、安心したような微笑みを浮かべて目を閉じる志摩。
次第に呼吸が深くなって、静かに眠りに落ちていく気配が伝わってきた。

「志摩ちゃん専用の超特別仕様のごはんにするね」

返事はなく、静かな寝息だけが返ってくる。
名残惜しいけれど、そっとベッドを抜け出してキッチンへ向かった。
せめて普段より、手間をかけたい。
志摩が起きるそれまでに、いい匂いで部屋をいっぱいにしておこうと、フライパンに火をつけた。
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