ノーマル
夏の湿った風が、窓から車内に流れ込んでいた。
窓の外には、かすかに滲んだ星がいくつか瞬いている。
「織姫と彦星ってさ、年に一回しか会えないなんて可哀想だよねぇ」
「自業自得」
「どゆこと?」
「…おまえ、織姫と彦星の話知らねえのか」
「知ってるよー?天の川で会えなくなるやつでしょ?年に一回会えるんだよね?」
その答えに呆れて、小さくため息をついた。
弟たちに読み聞かせた絵本を思い出しながら、かいつまんで説明する。
「織姫は機織りの仕事、彦星は牛飼い。ふたりとも働き者だったんだけど、結婚したらイチャイチャするのに夢中で、全然仕事しなくなったんだ。で、それを怒った天帝が、ふたりを天の川の両岸に離して、一年に一度だけ会うことを許したって、そういう話」
感心したように小さくうなずくその様子が、あまりに素直で子どもみたいだと思った。
けれどその直後、少し目を伏せてほんの僅かに口元を歪める伊吹。
「…じゃあさ、俺たちも仕事サボってイチャイチャばっかしてたら、天の川の両端に飛ばされちゃう?」
冗談めかして笑いながら、でもその瞳の奥にはほんの少し不安の色が滲んでいた。
無邪気なふりをして、こうして本音をぽろっと漏らす。
「織姫と彦星みたいに、志摩と一年に一回しか会えないなんて嫌だなぁ…」
「だから間に合わせんだろ、ふたりで」
そう返すと、伊吹の瞳が輝きを取り戻した。
織姫と彦星になるなんて真平ごめんだ。
隣にいるこの温もりを手放さないためにも、これからも間に合わせる。二人で。
