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ノーマル


夜の十一時を過ぎると、このコンビニも客足がすっかり落ち着く。
店内には冷蔵庫の稼働音と、たまに棚を整える音だけ。

そんなとき、二人組の男が来店した。
片方は背が高くてパーカーのフードを目深にかぶっているから、一瞬不審者に見えなくもない。
隣の小柄な男にとびきりの笑顔を見せていなかったら、危うく通報しそうだ。

「いらっしゃいませ」

ふたりは店内を回って、軽食とお菓子それから缶ビールをカゴに入れレジに並んだ。
パーカーの男が一緒に支払いを済ませるけれど、このふたりはどんな関係なんだろうか。

「志摩ちゃんも甘いやつ食べる?」
「…うん」
「ん、じゃあ俺の半分あげる」

そんな何気ない会話なのに、妙に耳に残る。
ありがとうございましたとレジ越しにその背中を見送った。

「なんかいいな、ああいうの」

誰に言うでもなくぽつりと呟いて、俺はまた業務に戻る。
それから何度かあのふたりは来店して、何ごともなく帰っていた。
だけど、今日はいつもと違ってパーカー男だけ。
隣の小柄な男がいないと、やはり不審者のようで少し怯んでしまう。

「おかいけーおねがいしまーす」
「はい」

いつも通り変わり映えのないカゴの中に、避妊具。
ふたりで来たときは一度も購入されたことがないソレに思わず二度見した。
レジを打ちながら、変な汗をかきそうになるのを誤魔化してふと顔を上げた拍子にその男と目が合う。

「内緒ね」

切長の目が微笑み、小さく囁く。
その声も仕草も妙に甘ったるくて、余計に落ち着かない。

「ほんとはさ、遠いとこで買ってこいって言われたんだけど待てないんだもん。早く、愛したいからさ」

さらっと、まるでおにぎりでも買いに来たみたいな顔で平然と言う。
なんて返していいかもわからず、バーコードを通す手がちょっと震えた。

「…紙袋はご入り用ですか」
「大丈夫、家近いしすぐ使うし」

気まずさに拍車がかかる。
あの二人がふたりでいるときの空気が、ちょっとだけ漏れてきたみたいで。
つい、目も合わせずにお釣りを渡してしまった。

「ありがとねー」
「あ、ありがとうございました」

何度も見送った背中なのに、今夜は妙に色めいて感じる。
なんだかどっと疲れてしまい、深夜の静かなコンビニでひとり、小さくため息を吐いたのだった。

翌日

あのふたりが来店する。
小柄な男の頬はほんのり赤く、髪は少し乱れて、目元もうっすら潤んでる。
何より普段はVネックシャツなのに、今日はサイズの大きいパーカーを着ているのだ。

「だからさ、お留守番してていーよって言ったのに」

カゴを片手に背の高い男が柔らかに笑えば、その横で小さく唇尖らせて甘えた声。
もう完全に 愛されたあと感 丸出しの姿を見て、勝手に顔が熱くなる。

「…やだ、はなれるの」

だって俺は知っている。
隣の男が“早く、愛したいから”と言っていたこと。
避妊具を使用するようなコトが昨晩あったこと。

レジを打ちながら、あまりに甘い空気に胸焼けしそうになったが、なんとか普段通りに仕事をこなす。
やっと会計を終えて袋を手渡すとき、茶目っ気たっぷりに笑うのはパーカー男。

「超かわいいっしょ、俺のこいびと」

ホットスナックを見ている小柄な男には聞こえていないらしい。
ただ、恋人の袖をぎゅっと掴んでいる仕草は確かに可愛らしかった。

「志摩ちゃんなんか食べる?」
「んーん、はやくかえろ…?」
「そうだねぇ、かえろーねぇ」

チャイムが鳴って、ふたりが出ていく。
その背中を見送りながら、俺は思わず小さく呟いた。

「…しあわせそうで何より」

このあとまた、愛し合うのだろうか。
そんないらない想像をしてしまい、後ろめたさに駆られる。
知らなければよかったのに、もう忘れられない。
あのふたりの雰囲気は、独身深夜バイトの自分にはどうも甘すぎた。
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