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ノーマル


そろそろ日を跨ぎそうな時刻になる頃。
伊吹は苦笑しながらテーブルに突っ伏しかけている相棒を軽く叩いた。
いつもなら酔ってもそんなに崩れるタイプじゃないのに、今日はどうしたのか。

「志摩ちゃん飲みすぎだって」
「いぅき、手ぇ出せ」

頬を赤く染めて、目はとろんとしてる。
それでも口角はふにゃっと上がってて、その様は端的にきゅるきゅるだった。

「うぇ、ちょ、なにすんの!」

つい見惚れていると、俺の手首を強引に掴み、どこから取り出したのか黒の油性ペンを滑らせる。
抵抗する間もなく、俺の腕に、志摩は自分の名前をひらがなで書きおえた。

「これ、おれのだから」
「ちょっと志摩ちゃん?」

そう尋ねれば、志摩はむくれて俺の腕をぎゅっと抱えた。
分が悪いのかその視線は下を向いてしまっているけれど。

「…いぶきはおれのだから。誰にも取られたくないんだよ…取られたら、泣く」

そんな子どもみたいなこと言う姿なんて、見たことなかった。
胸の奥がきゅうっとなって、自然とにやけてしまう。
俺はそのまま書かれた名前をそっと撫でた。

「消すなよ…明日も、明後日も、…ずっと、そこにおれの名前、書いとけよ」
「ふふ、がってーん」

明日になったら真っ赤な顔で消せと懇願してくるであろう志摩を想像して笑いが溢れる。
ふわふわの髪をくしゃりと撫でると、志摩は嬉しそうに目を細めて、俺の肩に頭を預けた。

「かわいいねぇ」

小さな呟きはもう夢の中にいる志摩には届かない。
本当にずっと名前が消えなきゃいいのに、なんて思ってしまった。
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