『かっこいいよね。』

「そうね、かっこいいわよね。」

『結婚してるのかな？』

「してないと思うわ。そういう話を聞いたことないし…指輪もしてないから。」

『恋人はいるのかな？』

「う～ん…どうなのかしら…恋人の話も聞いたことがないわねぇ。前にロサンゼルスにいたときの話を聞いたけど、明智さんから女性の話がでたのはそのときの外国人の人くらいかしら？」

付き合ってたわけじゃないみたいだけど、と続ける美雪の言葉は聞こえているようで聞こえなかった。あそこまで女性を魅了する要素を持っている彼は、「今」はいないにしろ、過去に関係を持った女性は何人かいるに決まっているだろう。

見たこともない女性達を、明智の横に思い浮かべては頭の中で消していく。ちりちりと胸の奥が痛い。落ち着かない。到底届かないもの駄々をこねて欲しがっているような。そんな渇望に似ている。

「ふふっ、春葉ちゃんは明智さんのことが気になって仕方ないのね。」

「！」

なんとなく自分でもわかってはいたが、第三者の人間に言われると緊張してしまう。まだ感情に明確な名前がつかないが、明智のことが気になっているのは確かだ。しかし、まだあやふやではっきりと認めたくないこの感情を変な風に思われていないだろうかと心配になる。

「ふふっ、春葉ちゃん顔が真っ赤だよ。でもわかるなぁ。明智さん、かっこいいもん。私もいまだに会ったときはどきどきしちゃうもんなぁ。」

ニコッと目を細めて笑う美雪。

何度か明智と会っている美雪でもそう思うのかと思うと少し安心する。春葉自身まだよくわかっていないこの感情を、美雪が勝手に決め付けることもなく、ただ純粋に彼女が思うことを伝えてくれた。

変に茶化すようなこともしない美雪に感謝しつつ、まだ色々と聞きたい気持ちを、少し冷めた紅茶と一緒に喉の奥に押し込めた。