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ライラックが散るまで:1

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※短編「死神救世主」使用。結婚相手の苗字。

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「面白かったわね~。」

最近話題だった映画を2人で見て、一息つこうとカフェに入る。高校生のお小遣いにはちょうど良い、リーズナブルなチェーンのカフェ。美雪に一緒に注文してもらった小さなケーキとセットのドリンクを持って、席に着いた。

春葉は声が出ない。しかし、美雪のように同級生の友人との所謂「おしゃべり」の場を嫌いだと思ったことはなかった。最初は中々噛み合わないこともあるが、みんな春葉のペースを尊重しつつ、遠慮をしないで話をするようになってくる。幸い声が出ないだけで周りの音はしっかりと聞き取れるので、そこまで会話のテンポが乱れることもない。

春葉は特に美雪のことが好きだった。友達はたくさんいるが、決して同情やおせっかい、真面目さゆえの面倒見や責任感で動いているわけではなく、春葉のことをきちんと区別した上で普通の友達として接してくれる一番の大事な友だちだった。

美雪が語る言葉に、春葉は相槌を打って応える。周りの人間によく言われることだったが、春葉は普通に相槌を打っているつもりでも、表情や態度、挙動で感情が非常にわかりやすいと言われていた。

こちらから言いたいこと、聞かれたことに対しては、持参したメモ帳にメッセージを書く。楽しそうに先ほど見た映画の内容について話す美雪に「ヒロインの最後の台詞が好き」と書くと、「わかるわ!」と力強く同意してくれた。楽しそうな美雪を見ているのはとても幸せだ。

「…。」

映画の話題がひと段落つくと、会話に一瞬の隙間が生まれる。

見計らって、というわけではないが「聞きたい」と思っていたことを聞けるタイミングだと思い、先ほど雑貨店で買った新しいペンをメモ帳の上に走らせた。

『明智さんとどこで知り合ったの?』

「明智さん…?ん~…初めて出会ったのは北海道の山荘だったかな。それも偶然と言えば偶然なんだけど…。」

『何のお仕事をしてる人なの?』

「警察の人なの。ほら、はじめちゃんってよく色んな事件に巻き込まれるでしょ?それで警察の明智さんとは色々と会うことが多くて…あ…!春葉ちゃん、そんなに驚かないで…!」

警察、と聞いて思わず身体が強ばる。別に後ろめたいことはないのだが、少し緊張をしてしまう職業だ。いっそ彼が一般企業に勤める会社員などであれば、自分のよく知らない世界の人間だと思える。しかし、警察官と言えば馴染みは少ないが世間一般の人間でもどんな仕事をしているのかよくわかる職業だ。

そしてやはり驚きが顔に出ていたらしく、美雪が少し慌てる。

「警視庁に勤めているみたいなの。若いけど偉い人で…頭もいいし…見た目もあの通りね!昔はフェンシングもやってたみたいで…」

美雪が次々と紡ぐ言葉から拾った単語を無意識にメモ帳の上に書いていく。警察、警視、フェンシング、ヴァイオリン、秀央高校特Aクラス、東大出身…。さっきまで全く不明だった彼の姿に一気に奥行きがでていく。知れば知るほど情報としては彼のことがわかるのだが、あまりの才色兼備さでより遠ざかるようだ。

美雪も、彼女の幼なじみである金田一も、そんな明智と知り合いであること、普通に会話ができることを純粋にすごいと思った。そんな人間を目の当たりにすれば気後れしてしまって、前に出るのも恥ずかしいと思ってしまう。

そう思うのに、先ほどから「知りたい」という気持ちが止まらない。
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