ライラックが散るまで:6
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「いいんですよ」
「…!」
春葉の震えていた手を慰めるように、明智の手が優しく重なる。驚いて明智の顔を見ると、彼は先ほどから変わらない、柔らかな表情のまま春葉を見つめている。
「貴方は強い人ですね。私と向き合おうとしている」
やはり彼には何でもお見通しで、この場から逃げたいと思っていた春葉の弱い心も、すっかり見透かしていた。
その上で今、春葉が言葉を綴ろうとする行動の意味をきちんと受け止めてくれている。
「無理に言葉にしなくて良いときもあります。貴方の言いたいことは、もう伝わっていますから」
そう言って明智はスーツのポケットの中から、煤焼けた小さな紙を取り出した。
「…!」
差し出された紙を覗くと、そこには見慣れた自分の字があった。
すぐさまそれを書いたときのことを思い出し、明智がその紙を持っていることに衝撃を受けた。
「私宛だったので、見ても問題ないと思いまして」
その手紙は、ホテルの部屋で捨てたはずのもの。
明智にもう会うことはできないと思い、深い悲しみと後悔を吐露し、「明智が自分の好きな人」であることを素直に書き綴った。
そして、未来に向けたそのときの自分の思いが、はっきりと刻まれていた。
『また会いたい』と。
「私も、あのまま貴方と会えなくなるのは嫌だった」
明智の言葉に一瞬甘い響きを感じるものの、今その言葉は「生きて再開できたこと」への安心感を示しているのだと、言われなくてもわかっていた。
「それで、返事なのですが」
「…!?」
自分の知らない間に伝わってしまっていた想いに、さっきまでとは違う焦燥感が生まれる。
返事、と聞いて驚きで明智を見ると、しっかりと目が合う。
「女性からの告白というのも初めてではないのですけどね。置かれていた状況のせいか、とても心に響きました」
明智は一度微笑むと、すぐに真剣な顔をした。