ライラックが散るまで:6
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ーー下着を取られた以外は何も。
そう書いたメモを見せると、明智が驚いたような顔を見せた。
「何も…ですか?」
こくり、と小さく頷くと彼は何か少し考える素振りを見せた。
「本当に何も?私に言いたくないことがある、とかではなく?」
少し顔を赤らめながらも、再び春葉が頷くと、明智はその表情を観察するようにじっくりと暫く眺めてから、気の抜けたような大きな息を吐いた。
いつも隙のないように見える明智の、脱力する姿は初めてだった。
「あれは霧島の悪趣味な挑発だった…ということか…」
1人納得のいったような明智の顔を眺めていると、春葉の視線に気づいたのか、明智は春葉に向かって優しげな笑顔を浮かべた。
「っ…」
まさかそんな風に優しい顔を向けて貰えるとは夢にも思っておらず、一拍思考が遅れる。
明智は怒っていないのだろうか。
勝手なことをして、結果大変な迷惑をかけた自分に。
何故、笑いかけてくれるのだろう。
「…泣かないでください」
気がつくと瞳に集まった涙が、無抵抗に頬を流れていた。声はでなかったが、喉や気管が音を鳴らし、ぐすぐすと泣くのが止まらない。
同時に、今まで堰き止められていた様々な感情が溢れ出してくる。
こわかった。悲しかった。
そして、助けに来てくれた明智の姿を見たとき、とても嬉しくて堪らなかった。
顔を合わせづらいという理由で、逃げ腰だったさっきまでの自分。でも今は、胸にとめどなく溢れ出る感謝や謝罪の気持ちを伝えなければいけないと、明智のペンを強く握りしめた。
「…っ」
しかし、ペン先が紙に着くことはなく、ただ宙を空回る。
いざ何かを書こうとすると、手が震えてしまうばかりか、何も考えられないように頭が真っ白に戻される。
「…春葉さん…」
今までこんなことはなかった。
全く言葉にならない。
命を助けてくれた恩人を前にして一言も出てこない自分が情けなくて、一層涙が溢れた。