ライラックが散るまで:4
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「復讐するのですよ。私が手を貸しましょう。犯人を見つけて、その人間に裁きを与えるのです。今決断するのであれば、この状況からも助け出してあげますよ」
「…」
眩暈がするような言葉。「あのとき」から春葉にずっと纏わりつき、抱えきれずにただ熟させるしかなかった大きな淀みを受け入れてくれるような優しい言葉のようにも思えた。
さらに高遠は、死神マジシャンの手によって捕らえられているこの状況からも助けてくれると言う。先ほどのやりとりを見るに、あの霧島も高遠には強く出られないようなので、嘘ではないだろう。
春葉の腹の底で大きな感情が渦を巻き始めた。
「さぁ?どうしますか?」
春葉を見据える夜のような真っ黒な瞳。奥深い闇を感じる一方で、安らぎのようにも感じる。この手をとる未来の行く末を暗示しているようにも見えた。
突如春葉の目の前が黒く濁った。瞬間、ある感情が思い起こる。
金田一のノートの端から落ちたチラシを拾ったあのとき。「危険かもしれない」という自制心を無視したときと同じだ。春葉が終始胸を痛めている明智の言葉はその行動の結果だった。
春葉は静かに深呼吸をした。あのときよりも危機的な状況だというのに、徐々に頭が冴えていく。
今高遠の手を取るか。明智だったら、そう考えた直後、答えは決まった。
「……そうですか。残念ですね」
高遠は春葉に背を向けて、そのまま離れていく。
これで助かる道がひとつ絶たれてしまった。
しかし、明智に胸を張って向き合うことができなくなるよりはよっぽど良いと思えた。
「それでは残りの時間、生きる為にもがきなさい。まぁ…今回努力をするのは見つける側のようですがね。ここで死ぬのならばそれまでの人生だったと諦めることです」
先ほどの優しい言葉や手つきからは信じられないほどあっさり言い放つと、高遠は春葉に背を向けて離れていった。
「それでは私もあちらの様子を見に行きますか。」
そう言うと、高遠はそのまま霧島と同じように部屋からでてしまった。
1人取り残された部屋で春葉は俯いた。それでも明智のことを強く思えば、今この決断を恥じることはなかった。
大きく乱されていた感情は徐々に冷静さを取り戻している。
生きることを諦めたわけではない。強い生への執着を胸に、今自分にできることを探そうと、春葉は1人思考を巡らせ始めた。