ライラックが散るまで:4
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「やめろ、霧島。悪趣味だ」
後ろから放たれたその言葉に霧島の手が止まる。春葉への興味など途端になくなってしまったかのように、霧島は身体ごと部屋の奥の男に向き直った。
「なんだよ高遠~」
「今回は私の邪魔をしないという条件で了承したはず。そんなことをしたら私の品位に関わる」
「ちぇっ」
手のひらの中でナイフを弄びながら、霧島は春葉に一瞥するとそのまま立ち上がって離れてしまった。一気に機嫌を損ねたようで、外の様子を見てくると一言告げてそのままどこかへ行ってしまった。
先ほどまで何も言わずにこちらの様子を伺っていた男。死神マジシャンである霧島が「高遠」と呼んだのを春葉は聞いていた。普段であればその名前を聞いてもまさかと思う程度だが、今の春葉はそれが死神マジシャンと同様に世間を騒がせている「地獄の傀儡師」だと確信した。
霧島も高遠も春葉が噂から認識しているイメージだと恐ろしい犯罪者であることには変わらないのだが、今高遠に助けられたことは事実だった。春葉が警戒するように高遠を見つめていると、霧島が出て行くのを視線で追っていた高遠と目が合う。
「全く不運な人間ですね。しかし、霧島が言ったこともひとつ正しい。情に溺れて理性を失えば、命を脅かすような危険に巻き込まれることもある。もう少し賢くなりなさい」
何度言われても胸が痛む失敗だ。先ほどの霧島とは違って、素直に受け入れざるを得ない話し方だった。
「しかし…霧島も随分と面白い人間を見つけてきましたね」
高遠は霧島が置いていたタブレット端末と春葉を交互に見始める。
「佐倉春葉か。13歳のときに家族が押し入った強盗に殺害。犯人が逃亡する際の人質になり、1人生き残った。その後は一時親戚に預けられて、今は両親の遺産で一人暮らしですか」
「!」
自分からは誰にも語ったことがない過去。思い起こさないように必死に閉じ込めていた出来事。
「大方、人質に取られたときに言われたのでしょう?"声を出すな"とね」
「っ」
どくん、と心臓が大きく脈を打った。これ以上聞きたくないと唯一自由な顔を必死に振るが、高遠の声を拭うことができない。
「そのときの強盗殺人犯は逃亡。未だに捕まらないまま…か」
「っ…」
いつの間にか溢れていた涙を、近づいてきた高遠の指で掬われる。驚くほどに優しい手つきだった。
「どうやら貴方は私にとっても面白い人間のようだ」
「…?」
「憎いでしょう。その犯人が。家族を殺して、自分から声を奪った。歯がゆく悔しい思いをしたことがたくさんあるでしょう」
「…」
涙を掬った指が頬の上を滑り、そのまま優しく包み込む。春葉を覗き込む表情も、思わず縋りつきたくなるほど柔らかかった。
「亡くなった人間は戻ってきませんが…その声なら戻る可能性がありますよ。心因性のことであれば簡単だ」
不思議と次の言葉を待ってしまう高遠の声。魅入られたようにその顔を見つめていると、ゆっくりとその唇が動く。
後ろから放たれたその言葉に霧島の手が止まる。春葉への興味など途端になくなってしまったかのように、霧島は身体ごと部屋の奥の男に向き直った。
「なんだよ高遠~」
「今回は私の邪魔をしないという条件で了承したはず。そんなことをしたら私の品位に関わる」
「ちぇっ」
手のひらの中でナイフを弄びながら、霧島は春葉に一瞥するとそのまま立ち上がって離れてしまった。一気に機嫌を損ねたようで、外の様子を見てくると一言告げてそのままどこかへ行ってしまった。
先ほどまで何も言わずにこちらの様子を伺っていた男。死神マジシャンである霧島が「高遠」と呼んだのを春葉は聞いていた。普段であればその名前を聞いてもまさかと思う程度だが、今の春葉はそれが死神マジシャンと同様に世間を騒がせている「地獄の傀儡師」だと確信した。
霧島も高遠も春葉が噂から認識しているイメージだと恐ろしい犯罪者であることには変わらないのだが、今高遠に助けられたことは事実だった。春葉が警戒するように高遠を見つめていると、霧島が出て行くのを視線で追っていた高遠と目が合う。
「全く不運な人間ですね。しかし、霧島が言ったこともひとつ正しい。情に溺れて理性を失えば、命を脅かすような危険に巻き込まれることもある。もう少し賢くなりなさい」
何度言われても胸が痛む失敗だ。先ほどの霧島とは違って、素直に受け入れざるを得ない話し方だった。
「しかし…霧島も随分と面白い人間を見つけてきましたね」
高遠は霧島が置いていたタブレット端末と春葉を交互に見始める。
「佐倉春葉か。13歳のときに家族が押し入った強盗に殺害。犯人が逃亡する際の人質になり、1人生き残った。その後は一時親戚に預けられて、今は両親の遺産で一人暮らしですか」
「!」
自分からは誰にも語ったことがない過去。思い起こさないように必死に閉じ込めていた出来事。
「大方、人質に取られたときに言われたのでしょう?"声を出すな"とね」
「っ」
どくん、と心臓が大きく脈を打った。これ以上聞きたくないと唯一自由な顔を必死に振るが、高遠の声を拭うことができない。
「そのときの強盗殺人犯は逃亡。未だに捕まらないまま…か」
「っ…」
いつの間にか溢れていた涙を、近づいてきた高遠の指で掬われる。驚くほどに優しい手つきだった。
「どうやら貴方は私にとっても面白い人間のようだ」
「…?」
「憎いでしょう。その犯人が。家族を殺して、自分から声を奪った。歯がゆく悔しい思いをしたことがたくさんあるでしょう」
「…」
涙を掬った指が頬の上を滑り、そのまま優しく包み込む。春葉を覗き込む表情も、思わず縋りつきたくなるほど柔らかかった。
「亡くなった人間は戻ってきませんが…その声なら戻る可能性がありますよ。心因性のことであれば簡単だ」
不思議と次の言葉を待ってしまう高遠の声。魅入られたようにその顔を見つめていると、ゆっくりとその唇が動く。