ライラックが散るまで:4
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「あんたさぁ、あいつ…明智のこと、好きなんだろう?」
全く予想しなかった質問に呆気にとられ、肯定も否定もできずに春葉が固まっていると急に顎を掴まれる。
「どうなんだよ」
「っ」
骨が軋む音が聞こえるくらい、強まっていく力。嘘を吐くことすら考えられず、春葉は小さく首を縦に振った。その反応に満足したのか、霧島は春葉から手を離すと高らかに笑った。
大事に閉まっていた気持ちを笑いものとして暴かれ、春葉は静かに奥歯を噛んだ。
「あ~あ!あの男のことを好きにならなければ今頃お家で安全で平和に過ごせていたのにねぇ…それが俺みたいなやつに捕まっちゃって!本当にバカな女!」
「…っ」
「俺はね、あいつのこと、大っ嫌いなんだよね」
霧島の大きな手が今度は春葉の髪の毛を遠慮無しに掴む。髪の数本が引きちぎれるような音と、鋭い痛みに表情が歪む。
「~っ!」
「なんでだと思う?」
髪を引っ張り上げられ、無理矢理顔を上げさせられる。痛みに涙を滲ませながら、出ない声の代わりに「わからない」と伝える為に一生懸命に首を振った。
「あいつはな…いつも"正しい"ことしか言わないんだ!人を殺すのはいけない、罪は償わないといけない、裁くのは法だ、とかね!でもな…世の中はもっと汚くて曖昧、理不尽なことだらけでどろどろと動いてるんだよ」
目の前で語られる強い厭悪。一度見たら忘れられないくらい憎悪に染まった恐ろしい人間の表情だ。しかし、霧島の言葉を聞いていた春葉には不思議なことに冷静さがおりてきた。
「正攻法でしか動けない、人を裁けない、そんなアイツが苦しむのが俺は大好きなんだ。綺麗なことばっかりいって、結局誰も助けられないただの偽善者だって思い知らせてやりたい。お前はその為の最高の礎だ!」
「…」
「…なんだよ、その顔」
一層春葉の髪を掴む霧島の力が強くなる。目の前の男がこわいはずなのに、「殺されるかもしれない」という死への恐怖すら押しのけて、いつの間にか春葉に強い反抗心が芽生えていた。
確かに明智は霧島の言う通り、恐ろしいくらいに「正しい」ことを言う。それはほんの少しだけ明智と接触しただけの春葉にもわかったことだ。そのどこまでも正しい言葉に春葉自身も深く傷ついた。しかし、それは明智を憎む理由にはならない。あの真っ直ぐな正義感に輝く、彼の美しく綺麗な瞳に、春葉は強く惹かれたのだ。
自分の命が危険に晒されているというのに、明智の存在や信頼が膨らみ、不思議と恐怖が薄れる。あの明智がこんな男に負けるわけがないと春葉の表情は語っていた。
「俺、お前みたいに素直に頷かない女も嫌いなんだよね」
「…」
霧島は暫く春葉のことを見下し睨みつけていたが、春葉が反抗的な視線を辞めないことがわかったようで、さも面白くないというような顔を見せた。
しかしその直後、ふと厳しい視線を和らげた。その視線に一種の哀れみのようなものを感じて、春葉の胸底が急激に冷える。
結局、生殺の主導権が誰にあるのかを思い知らせるような目だ。