ライラックが散るまで:4
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「くそっ!高遠のやつが動いたか…!」
野次馬も含めた宿泊客が次々と部屋から飛び出してくる。おそらく高遠が計画した殺人劇が幕を開けたようだ。一刻も早く春葉を探し出したいこの状況に、3人の胸の内に苛立ちにも似た感情がこみ上がる。こうやって2つの事件を同時に起こすことで捜査が撹乱し、尚且つ金田一たちの戦力が分散することを狙っているのだ。
「明智さん!佐倉を頼む!」
「金田一君と剣持警部は事件解決を頼みますよ!」
時間は一刻を争う。例え霧島たちの思い通りだとしても、今は別々で動くことが最適だと判断し、すぐさま各々の思うところへと散った。
明智の足は真っ直ぐに春葉がいた部屋へと向かう。霧島がどこかに隠しているであろう、次への痕跡を探す為に注意深く室内を観察し始めた。
「これは…」
ゴミ箱の中を見ると、そこには大量の紙くずが捨てられていた。その量を不思議に思いながら、明智は内心春葉に謝りつつその紙を開いた。
「っ…」
稚拙な単語の羅列。文章として構成されているものは殆ど無い。しかし、どんな文章よりも如実に、これを書いていた人物の心境を表していた。それは霧島が残したものではなく、春葉が残したものだということは明らかだった。
『ごめんなさい』
飾り気のない素直な謝罪。別のものをいくら開けど、そこにあるものは全て同じ。
ホテルのロビーで明智が春葉に言った言葉は、彼女が傷つくとわかっていたものだった。警察として、大人として、伝えるべき責任と役割が明智にはあり、あの言葉を訂正するつもりもない。しかし、どれほど彼女にとってショックが大きかったことなのかを考えると明智の中で罪悪感がうずくのも事実だった。丸められた紙を開くたび、泣き出しそうな眼をした春葉に繰り返し謝られているような気分だった。
ゴミ箱の中の最後の一枚まで開いたあと、明智は大きなため息をついた。そのまま視線をテーブルの上に移すと、ただの紙切れ1枚しか残っていない彼女のメモ帳に気づいた。
明智さんへ、と書き出されているそれを見た瞬間、明智は喉の奥が詰まるような思いがした。
『明智さんへ。
あなたと楽しくお話したあの日、私にも好きな人ができたのだと思いました。
明智さんからしてみたらただの子どもの憧れのように映るのかもしれません。
それでも、貴方のことを好きだと思いながら時間を過ごすことは、今までの私にはなかった大事なものです。
頭の中が貴方でいっぱいになって、良いことと、悪いことの区別がつかなくなりました。
もし、今日のことを許してもらえるなら、明智さんのように生きていける大人になれるようにがんばりたいです。
これからも、明智さんに会いたいです。』
あまりにもまっすぐで、純真な気持ち。お互いの腹を探るような大人の駆け引きとは程遠い。
この素直な言葉が、明智が相手の気持ちに向き合うことを「大人らしく」言い訳を作って避けていたことに気づかせた。
「…私のような…人間を好きになるのは…駄目なんですよ…。こうやってツラい思いをさせる…」
こんな言葉すら、彼女の真剣な恋心の前ではちっぽけでかっこのつかない言い訳だった。明智は唐突に春葉から逃げているままの自分に嫌気がさした。
このままではいられない。
先ほどよりもさらに強く、意思が固まっていく。
真っ先にやるべきことは、彼女が最後に書いた願いを叶えることだ。
「絶対に…貴方を見つけますよ」
誓いを立てるように静かに呟き、明智はそのメモ帳を丁寧にジャケットの内ポケットにしまった。
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