「…っ明智さん！ホテルに一般客もいるなら佐倉も一緒だろ！？何もあそこまで言うことないだろう？それに高遠の犯罪計画ならああいう予定外の人間は組み込まれていないはずだっ」

明智の滅多に見ない勢いに驚いたのは金田一も一緒だった。明智の態度を責めるように、金田一の声も自然に荒くなっていた。

「…危険には変わりありません。時間を置いたら彼女の部屋を訪ねて、街まで送り届けます。」

驚くほどに冷淡な声に再び金田一は驚く。明智は少し息を吐くと失礼、と一言零しそのままどこかへと行ってしまった。

「…なぁ、おっさん。明智さんが話そうとしてたことについて知ってるのか？」
「あぁ、俺もお前と合流する前に聞いたさ。」
「多分…明智さんが佐倉にあそこまで言うのはそれが関係しているんだろ…」
「そうだ。あんな様子は殆ど見たことがないが…警視の気持ちもわかってくれ。」

金田一は先日の明智とのやり取りを思い出す。春葉が明智に会いたい一心で偶然知ったこの場所へ来てしまったことは、金田一にでもわかった。あのとき、美雪を心配させないが為に彼女がここまで来ないように軽めの嘘をついたが、こういうことならば「危険だから来るな」と真実を伝えるべきだったのではないかと少しの罪悪感を感じた。

「佐倉…泣いてた。」
「そりゃあ…な。あんなに警視のことを好いているし…素直な子だから、ああいう風に怒られることも過去にそうなかっただろう。となると、相当なショックだろうな。」
「…明智さんの言ったことも…正しいんだよな…。」
「…そうだな…とりあえずは俺たちも一度荷物を置こう。佐倉君のことはそのあと動こう。」
「あぁ…」

先ほどの明智の表情や言葉を反芻する。聞きかけた途中ではあったが、きっと明智の不安要素が「相当な理由」だということなのだろうと金田一も考えた。クラスメイトの涙、それも好きな相手にあのように鋭く叱責されて泣いていた春葉のことを考えると胸が痛いのも事実だった。
どんな声をかけてやろうかと、考えていると置いてきた幼馴染の顔が浮かんだ。こんなときに美雪がいてくれたらよかったのに、と眉を寄せながら金田一は春葉が消えていったロビー奥の廊下を見つめた。