ライラックが散るまで:1
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目の前をたくさんの人が行き来する。
忙しく早足で歩き去るサラリーマン、OL。制服に身を包んだ楽しげな中高生グループ、小さな子どもを連れた家族連れ、手を繋いで歩く幸せそうな恋人同士。見たことがないようなファッションの人もたくさんいる。
どんな人間でも自然と集まってくる、都会とはそういうところだ。ましてや、連休中の新宿駅前の待ち合わせスポットとなれば尚更のこと。
そして佐倉春葉もここ、新宿駅東口に人と待ち合わせる為に集まってきた人間の1人である。駅の出口というだけで、特別何かシンボルになるようなものがあるわけではない。狭い面積を人同士が肩や腕をぶつけ合いながら、待ち合わせ相手を探している。待ち合わせ場所と言ってもここから待ち人を捜すのも簡単なことではなさそうだ。
カラフルで雑多な人の群れは、テレビで見るニュース映像と似ていて、まるで他所の世界のよう。ここまで大きな街と今日の今日まで縁がなかった春葉には、同じ国内であるはずのこの場所が遠い異国かのように感じられた。楽しげに歩く同年代の女子高生グループ達のように、まだこのような都会には慣れていないのだ。
しかし、ただ慣れていないというだけではない焦りが先ほどから春葉の不安を煽っている。必死に握りしめた手の平に汗が溜まっていくのを感じながら、肩を丸めてその場に潜む。
甘かった。
そう思ったことは2つ。
まずひとつめは、予備のペンを持ってこなかったこと。持っていたたった一本のペンを、この人混みの中で失くしてしまった。普段なら予備のペンは数本持ってきているのだが、今日は私服に合うようにと小さめのバッグを選んでしまったことがよくなかった。外出に浮かれていたこともあり、一本あれば問題ないだろうと思っていたのが最大の油断だった。案の定、この人混みで地図を見ながら歩いていたら、その間に持っていたペンがどこかへ行ってしまったのだ。
大事、と言ってもそのペンが値段の張る高級な代物であったり、親族の形見などといった特別な思い入れがあるものではない。どこにでもある何の変哲もないただのペンだ。しかしそれは春葉にとってはどうしても無くてはならないものだった。
もうひとつの甘い考えとは、待ち合わせ場所にこんなに人が多いとは思っていなかったこと。自分の家の最寄り駅もそこそこ賑わっているとは言え、まさかここまで人に埋もれるような状況になるとは考えていなかった。おそらくそれは今春葉が探している人物も同じだろう。このような場所だとわかっていれば、あの人も別の場所を待ち合わせ場所に選んでくれていたはずだ。
さらに不幸なことに、こんな大事な日に限って携帯電話の充電がきちんとされていなかった。携帯電話に依存しているわけではないが、この状況で残りの充電が10パーセント近いのは恐ろしいことであった。迂闊に使用して充電が切れてしまったら、そのときこそ本当の窮地だ。
「…。」
ぐるりと周囲を見渡す。他人など目もくれずに、目的に向かって真っ直ぐに歩む人々を見ていると、刻一刻と深まる心細さに襲われた。初めて来た東京の大きな駅。駅構内ですらたくさん迷って、ここまで辿り着けたのだ。別に外国に来たわけでもないのに、ここにいる人たちが自分とは意思疎通の取れない人間なのではないかと、悪い方向へと想像力が働いていく。
とにかく安心したい一心で、見知った顔を探そうと先ほどよりも真剣に目を凝らし、待ち合わせ相手を探し始めた。
忙しく早足で歩き去るサラリーマン、OL。制服に身を包んだ楽しげな中高生グループ、小さな子どもを連れた家族連れ、手を繋いで歩く幸せそうな恋人同士。見たことがないようなファッションの人もたくさんいる。
どんな人間でも自然と集まってくる、都会とはそういうところだ。ましてや、連休中の新宿駅前の待ち合わせスポットとなれば尚更のこと。
そして佐倉春葉もここ、新宿駅東口に人と待ち合わせる為に集まってきた人間の1人である。駅の出口というだけで、特別何かシンボルになるようなものがあるわけではない。狭い面積を人同士が肩や腕をぶつけ合いながら、待ち合わせ相手を探している。待ち合わせ場所と言ってもここから待ち人を捜すのも簡単なことではなさそうだ。
カラフルで雑多な人の群れは、テレビで見るニュース映像と似ていて、まるで他所の世界のよう。ここまで大きな街と今日の今日まで縁がなかった春葉には、同じ国内であるはずのこの場所が遠い異国かのように感じられた。楽しげに歩く同年代の女子高生グループ達のように、まだこのような都会には慣れていないのだ。
しかし、ただ慣れていないというだけではない焦りが先ほどから春葉の不安を煽っている。必死に握りしめた手の平に汗が溜まっていくのを感じながら、肩を丸めてその場に潜む。
甘かった。
そう思ったことは2つ。
まずひとつめは、予備のペンを持ってこなかったこと。持っていたたった一本のペンを、この人混みの中で失くしてしまった。普段なら予備のペンは数本持ってきているのだが、今日は私服に合うようにと小さめのバッグを選んでしまったことがよくなかった。外出に浮かれていたこともあり、一本あれば問題ないだろうと思っていたのが最大の油断だった。案の定、この人混みで地図を見ながら歩いていたら、その間に持っていたペンがどこかへ行ってしまったのだ。
大事、と言ってもそのペンが値段の張る高級な代物であったり、親族の形見などといった特別な思い入れがあるものではない。どこにでもある何の変哲もないただのペンだ。しかしそれは春葉にとってはどうしても無くてはならないものだった。
もうひとつの甘い考えとは、待ち合わせ場所にこんなに人が多いとは思っていなかったこと。自分の家の最寄り駅もそこそこ賑わっているとは言え、まさかここまで人に埋もれるような状況になるとは考えていなかった。おそらくそれは今春葉が探している人物も同じだろう。このような場所だとわかっていれば、あの人も別の場所を待ち合わせ場所に選んでくれていたはずだ。
さらに不幸なことに、こんな大事な日に限って携帯電話の充電がきちんとされていなかった。携帯電話に依存しているわけではないが、この状況で残りの充電が10パーセント近いのは恐ろしいことであった。迂闊に使用して充電が切れてしまったら、そのときこそ本当の窮地だ。
「…。」
ぐるりと周囲を見渡す。他人など目もくれずに、目的に向かって真っ直ぐに歩む人々を見ていると、刻一刻と深まる心細さに襲われた。初めて来た東京の大きな駅。駅構内ですらたくさん迷って、ここまで辿り着けたのだ。別に外国に来たわけでもないのに、ここにいる人たちが自分とは意思疎通の取れない人間なのではないかと、悪い方向へと想像力が働いていく。
とにかく安心したい一心で、見知った顔を探そうと先ほどよりも真剣に目を凝らし、待ち合わせ相手を探し始めた。