「よかったわね。春葉ちゃん。」

肩を叩かれ、振り返るとにっこりと笑う美雪がいた。その向こう側の金田一、会ったばかりの剣持も緊張が解けたように優しく微笑んでいる。３人の優しい気遣いをそのときに知った春葉は、唇で小さく「ありがとう」と形をつくった。

「剣持警部。金田一くんがここには来ているのは、例の件ですか？」
「あ、そう言えばおっさん。話ってなんだ？」
「あ、あぁ…。ちょっとな…。」

剣持の言いだし辛そうな雰囲気を春葉、金田一、美雪が察する。春葉はこの輪の中で一番「想定外」の人間だ。自分が聞いてはいけない話なのだろうと瞬時に感づく。

「私からもその件について金田一君に話があります。」
「…じゃあ私と春葉ちゃんは帰ろうか。」

美雪の提案を否定することなどできない。昨日までは…明智が現れる前まではもう一度、一目会うことができれば満足すると思っていた。しかし実際会ってしまえばそんなことはただの綺麗ごとだった。実際の願いはもっともっと欲深くて醜い。所詮春葉と明智との関係はこの程度なのだ。偶然により出会い、不思議な縁でこうやって二回目の邂逅が許されたが、これ以上踏み込む余地はない。テレビなどで見る人と同じで、春葉が関わり続けるのには色々なものが足りなかった。

「あ～…おっさん、明智さん。俺、腹減ったな～。実は早弁しちゃってから今の今まで何も食べてないから俺限界で…。こんな状態じゃ大事な話も耳に入らないぜ…。」
「全くお前は会えばいつもメシメシって…お前の財布じゃないんだぞ。」
「いーじゃんいーじゃん！その分働いてるつもりだぜ？」
「うぉっほん。まぁいいだろう。じゃあ…七瀬くんとその…佐倉くんも来るか？それくらい時間はあるだろう。話はそのあとだ。」
「えっ！？いいんですか？」
「折角だし、いいだろう。」

金田一の意図がわからないほど馬鹿ではない。隠しきれない思いで周りに気を使わせていることに何も思わないわけではなかったが、萎みかけていた気持ちが再び持ち直した。僅かに与えられたチャンスを逃したくないと欲張りな気持ちが春葉の中では勝っていた。
剣持はちらり、と明智を見る。

「明智警視も来ますよね？」

明智の返事に揺り動かされる様子を悟られたくないと、とぎゅうっと制服のシャツの袖を握った。

「…そうですね。それでは私もご一緒しましょうか。」