ライラックが散るまで:2
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「それじゃあ、今解き終わらなかった分と次のページは宿題な。」
チャイムが鳴るや否や、黒板の前に立つ教師の言葉を待たず、ざわつく生徒達。今日最後の6限目の授業が終わった。
各々の放課後の活動へと散っていくクラス内。春葉がちらりと窓側後方の席を見ると、昨日1日新宿で一緒に遊んだ美雪が帰宅の準備をしていた。
「…。」
小さめのペンケースを鞄から取り出し、それを持って美雪の席へと近寄る。引き出しの中を整理しながら帰り支度をする美雪は、近寄ってきた春葉にはまだ気づかない。美雪を驚かせないようにそっとその肩を叩いた。
「あ、春葉ちゃん。」
にっこりと笑う美雪に春葉も笑顔で大きく頷く。言葉はなくとも挨拶ぐらいは表情で伝わるのだ。
「どうしたの?」
何か用事があるのだろうと美雪が春葉に尋ねた。先ほど鞄から取り出したペンケースを美雪の目の前に差し出し、その中を開ける。たった一本のみ入っているそれを、美雪もきちんと覚えていたようだった。
「あぁ!明智さんのペンね。返さないとだよね。」
そう言うと美雪は自分のすぐ隣、窓際の一番後ろの席に向き直る。教室内の殆どの生徒が授業の終わりを待ちわびていたのに、彼はまだ授業中…いや、夢の中のようだった。
机に突っ伏して寝たままの彼を見て美雪は盛大に溜め息を吐くと、春葉には向けたこともないようなワントーン高い声で、眉を顰め、大きく声を張り上げた。
「はじめちゃんっ!」
「う、お、ぁぁ!?な、なんだよ美雪ぃ!」
「なんだよ、じゃないわよ!もうとっくに授業終わってるわよ!全く…今日は当てられなかったから良かったかもしれないけど…宿題、どこか聞いてなかったでしょう!?明日当てられても知らないからね!」
「え?あ、あぁ。もう授業終わってるのか…。」
「まったくもう!」
金田一一。
美雪の幼なじみで、クラスメイト。あの名探偵の孫だということも、たまに周囲で起きる事件の解決に貢献していることも、知らないわけではない。しかし1クラスメイトとしては、彼が美雪にこうやって怒られるところばかりを見ているので、そんな彼の勇姿は想像し難い。
「すまんすまん…まぁそんな堅いこと言わずにさぁ。」
「もう!」
「あははは~…っと。あ、もう帰るのか?だったら先に帰っててくれよ。俺、今日用事あるんだった。」
「え?用事って?」
「剣持のおっさんに呼ばれたんだよ。話があるって。」
「剣持警部に!?そしたら明智さんもいるかしら?」
美雪と金田一の会話の中に出て来た警部という言葉と、明智の名前に春葉ははっとする。幼なじみ同士の他愛のないやり取りを聞いているところから、意識が急に切り替わった。きっと「剣持」という人物は明智に近しい人間なのだろう。警部というのだから警察関連であることは間違いない。
「ん~…どうだかねぇ…。いるときはいるけど、あの人も忙しいからなぁ。明智さんがどうかしたのか?」
「それがね…」
「ん?佐倉…か?どうしたんだよ、そんなに近づいてきて…」
美雪の陰に隠れていた春葉に気づいていなかったであろう金田一が春葉の姿を認めた。知らず内に金田一に接近していたようだ。まさかこんなに近づいていたとは思わず、咄嗟に顔が赤くなる。金田一とは何回か関わったことがあるが、それは数えられるくらいで、特に記憶にも残らない大したことのないものだ。
所謂ただの「クラスメイト」。他の男子と違って、声の出ない春葉に対して過度な苦手意識を持たない、美雪同様春葉にとっていい人間だということはわかるのだが、如何せん春葉本人が男子との付き合いに慣れていないのだ。美雪と幼なじみとは言え、美雪ほど濃い関わりにはなれない。
金田一としても、あまり関わりのない春葉に急に接近されて驚いただろう。少し困っているのがその表情でわかる。
「…。」
慌てて頭を下げて、再び後ろにさがる。金田一に何故自分がここにいるのかを説明しようと自分のペンとメモ帳を取り出す。すると、美雪がペンを持った春葉の手をやんわりと制止した。
「実はね、昨日…」
美雪が昨日の出会い、いきさつなどを説明する。最初は真剣に聞いていた金田一も、明智の名前が出てからはあからさまに不機嫌そうな顔をして相槌も適当だ。女子には優しいのかね、と少し面白くないように言う。
チャイムが鳴るや否や、黒板の前に立つ教師の言葉を待たず、ざわつく生徒達。今日最後の6限目の授業が終わった。
各々の放課後の活動へと散っていくクラス内。春葉がちらりと窓側後方の席を見ると、昨日1日新宿で一緒に遊んだ美雪が帰宅の準備をしていた。
「…。」
小さめのペンケースを鞄から取り出し、それを持って美雪の席へと近寄る。引き出しの中を整理しながら帰り支度をする美雪は、近寄ってきた春葉にはまだ気づかない。美雪を驚かせないようにそっとその肩を叩いた。
「あ、春葉ちゃん。」
にっこりと笑う美雪に春葉も笑顔で大きく頷く。言葉はなくとも挨拶ぐらいは表情で伝わるのだ。
「どうしたの?」
何か用事があるのだろうと美雪が春葉に尋ねた。先ほど鞄から取り出したペンケースを美雪の目の前に差し出し、その中を開ける。たった一本のみ入っているそれを、美雪もきちんと覚えていたようだった。
「あぁ!明智さんのペンね。返さないとだよね。」
そう言うと美雪は自分のすぐ隣、窓際の一番後ろの席に向き直る。教室内の殆どの生徒が授業の終わりを待ちわびていたのに、彼はまだ授業中…いや、夢の中のようだった。
机に突っ伏して寝たままの彼を見て美雪は盛大に溜め息を吐くと、春葉には向けたこともないようなワントーン高い声で、眉を顰め、大きく声を張り上げた。
「はじめちゃんっ!」
「う、お、ぁぁ!?な、なんだよ美雪ぃ!」
「なんだよ、じゃないわよ!もうとっくに授業終わってるわよ!全く…今日は当てられなかったから良かったかもしれないけど…宿題、どこか聞いてなかったでしょう!?明日当てられても知らないからね!」
「え?あ、あぁ。もう授業終わってるのか…。」
「まったくもう!」
金田一一。
美雪の幼なじみで、クラスメイト。あの名探偵の孫だということも、たまに周囲で起きる事件の解決に貢献していることも、知らないわけではない。しかし1クラスメイトとしては、彼が美雪にこうやって怒られるところばかりを見ているので、そんな彼の勇姿は想像し難い。
「すまんすまん…まぁそんな堅いこと言わずにさぁ。」
「もう!」
「あははは~…っと。あ、もう帰るのか?だったら先に帰っててくれよ。俺、今日用事あるんだった。」
「え?用事って?」
「剣持のおっさんに呼ばれたんだよ。話があるって。」
「剣持警部に!?そしたら明智さんもいるかしら?」
美雪と金田一の会話の中に出て来た警部という言葉と、明智の名前に春葉ははっとする。幼なじみ同士の他愛のないやり取りを聞いているところから、意識が急に切り替わった。きっと「剣持」という人物は明智に近しい人間なのだろう。警部というのだから警察関連であることは間違いない。
「ん~…どうだかねぇ…。いるときはいるけど、あの人も忙しいからなぁ。明智さんがどうかしたのか?」
「それがね…」
「ん?佐倉…か?どうしたんだよ、そんなに近づいてきて…」
美雪の陰に隠れていた春葉に気づいていなかったであろう金田一が春葉の姿を認めた。知らず内に金田一に接近していたようだ。まさかこんなに近づいていたとは思わず、咄嗟に顔が赤くなる。金田一とは何回か関わったことがあるが、それは数えられるくらいで、特に記憶にも残らない大したことのないものだ。
所謂ただの「クラスメイト」。他の男子と違って、声の出ない春葉に対して過度な苦手意識を持たない、美雪同様春葉にとっていい人間だということはわかるのだが、如何せん春葉本人が男子との付き合いに慣れていないのだ。美雪と幼なじみとは言え、美雪ほど濃い関わりにはなれない。
金田一としても、あまり関わりのない春葉に急に接近されて驚いただろう。少し困っているのがその表情でわかる。
「…。」
慌てて頭を下げて、再び後ろにさがる。金田一に何故自分がここにいるのかを説明しようと自分のペンとメモ帳を取り出す。すると、美雪がペンを持った春葉の手をやんわりと制止した。
「実はね、昨日…」
美雪が昨日の出会い、いきさつなどを説明する。最初は真剣に聞いていた金田一も、明智の名前が出てからはあからさまに不機嫌そうな顔をして相槌も適当だ。女子には優しいのかね、と少し面白くないように言う。